安全保障、気候変動問題、エネルギー供給、原子力、多くの面で欧州に分断が起こりつつある。持続可能な発展のため温室効果ガスを削減する高い目標を欧州委員会が掲げても、事情が異なる加盟国の対応は様々だ。見せかけの環境先進国であるドイツの迷走が、それを深刻なものにさせている。
「気候宰相」も環境より雇用を優先
足並み揃わぬ欧州各国
「環境政策」に積極的な欧州だが、実は域内各国の足並みは揃っていない。単なる環境保護の観点ではなく、各国の産業保護の思いがちらつく。ここで譲ってしまえば、国富の流出につながってしまうからだ。例えば、コストに関する考え方だ。14年、ECは08年から12年の間にEU域内の産業用電力価格は年3.5%上昇し、価格は米露の2倍、中国より20%高くなったと発表した。価格上昇の理由は、送電コストと再エネ賦課金を含む税額増だ。
再エネが電気料金上昇を招き産業の競争力に影響を与えた形だが、その捉え方は加盟国により異なる。製造業が重要な地位を占め、発電量の30%以上を国内褐炭火力と石炭火力に頼るドイツと、石炭火力発電所が多い中東欧諸国は、エネルギー価格を重視している。ドイツと中東欧諸国は、ECが提案した30年の再エネ比率増に抵抗し、同年の排出削減比率増にも反対し、昨年末に合意した50年に純排出量ゼロにも最後まで抵抗した。
気候宰相と呼ばれる独メルケル首相も、温暖化対策よりも経済と雇用が重要と主張したことがあった。18年6月EUの環境大臣が集まった会議の席で、「ドイツにとり1番大切なのは雇用であり、CO2の問題は2番目だ」と述べ、環境政策により影響を受ける炭鉱、自動車産業の労働者の雇用がドイツでは最優先と明言した。
原子力発電でも意見は分かれている。EUでは温暖化を含め環境改善に資する事業に投融資を集中するため、どのような事業を対象にするかタクソノミー(分類)に関する作業が18年から開始された。原子力発電は投融資対象にならないと脱原発を掲げるドイツなど3カ国が主張し、フランス、中東欧諸国と対立した。
昨年12月、欧州議会と理事会は原子力が大きな害をもたらさないとの原則を満たせば対象にすると合意した。分類作業は21年末までに終了する予定だが、原子力の扱いについては引き続き議論がありそうだ。Wedge4月号特集「脱炭素バブル」では、欧州が主導する脱炭素ブームの背景にあるしたたかさと、日本のエネルギーの現在地と課題について紹介する。
■脱炭素バブル したたかな欧州、「やってる感」の日本
Part 1 「脱炭素」ブームの真相 欧州の企みに翻弄される日本
Part 2 再エネ買取制度の抜本改正は国民負担低減に寄与するか?
Part 3 「建設ラッシュ」の洋上風力 普及に向け越えるべき荒波
Part 4 水素社会の理想と現実「死の谷」を越えられるか
Column 世界の水素ビジョンは日本と違う
Column クリーンエネルギーでは鉄とセメントは作れない
Part 5 「環境」で稼ぐ金融業界 ESG投資はサステナブルか?
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