2024年12月9日(月)

脱炭素バブル したたかな欧州、「やってる感」の日本

2020年3月19日

 「この場所から未来の水素社会といった新しいページが、今まさに開かれようとしています」

 3月7日に福島県浪江町で行われた「福島水素エネルギー研究フィールド」の開所式挨拶で、安倍晋三首相はこう力強く述べた。この施設では、太陽光パネルで発電された電気を用いて水の電気分解を行い、水素を製造する。東京ドーム約4個分の広大な敷地には6万8000枚(20MW)のパネルが敷き詰められている。

福島県浪江町で行われた「福島水素エネルギー研究フィールド」の開所式(WEDGE)

 ここで生成される水素は東京五輪・パラリンピックの大会期間中、東京へと運ばれ、聖火台の燃料や選手らを運ぶ燃料電池自動車(FCV)、燃料電池バス(FCバス)の燃料として使われる。また、晴海地区に建設される選手村でも水素燃料電池により電力を供給するなど、日本の水素社会に向けた取り組みを世界に向けて発信する。18ヘクタールに及ぶ晴海地区には既に水素専用パイプラインが敷設されており、大会終了後には、水素を活用した街へと生まれ変わる予定だ。

「福島水素エネルギー研究フィールド」開所式で披露されたFCV「ミライ」第2世代(WEDGE)

 国が水素に本腰を入れ始めたのは、2014年、水素社会の実現に向けた取り組みを加速することを第4次エネルギー基本計画に盛り込んでからだ。17年には「水素基本戦略」を策定し、将来ビジョンを視野に、30年までの行動計画を示した。FCVやFCバス、水素ステーション、エネファームなど5つの分野について、30年までの数値目標も打ち出している。しかし、基本戦略のメルクマールとする2020年目標と現在の進捗を照らすといずれも大きな隔たりが生じている。

 例えば、FCバスは20年目標の100台に対し、2月末時点での進捗は全国で41台。東京都のFCバスも15台にとどまる。都の担当者によれば、東京五輪大会時までに、最大70台まで増台を目指すという。現在、東京都、大阪市、名古屋市の大都市圏を走るバスの車両は約3000台。名古屋市や大阪市ではFCバスの導入が進んでいないことから、国が掲げる1200台という30年目標は既に霞んでいる。

 20年の目標数値に対し、特に進捗率が低いのがFCVだ。20年における累計販売目標4万台に対し、20年2月末時点の進捗は3600台にすぎない。これについて資源エネルギー庁水素・燃料電池戦略室の牟田徹課長補佐は「(トヨタ自動車の)FCV新モデルによる生産拡大時期がずれ込んだため」と説明する。


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