ステーション事業が自立できないワケ
トヨタ自動車は14年、世界初の市販FCVとなる「ミライ」を発売したが、現在その生産台数は年間3000台にとどまっている。しかもそのうち2000台については北米を中心とした海外向けに生産されており、国内市場に出回るFCVはわずか1000台だ。
トヨタはミライ第2世代の年間生産台数が約3万台となると発表しているが、その販売は20年末になる。「もともと20年を水素元年と位置付けており、このタイミングでの生産拡大はかねてからの計画通りだ」(広報部)と、官民双方の見解はやや食い違っている。
また、FCV普及のためには水素ステーションの普及が不可欠である。水素ステーションは20年目標160箇所に対し2月末時点で113箇所。30年目標の900箇所の設置が仮に達成したとしても、これは全国のガソリンスタンド数の30分の1以下に過ぎず、ガソリン車の給油と比べるとFCVの利便性は圧倒的に低いことがわかるだろう。
さらに、基本戦略では20年代後半での水素ステーション事業の自立化を目標とするが、その道筋は見えてこない。自治体によって金額は異なるが、東京都の場合、約5億円の建設費のうち約4分の3を、また年間運営費約4000万円の2分の1以上が国及び自治体からの補助金で賄われている。
都市部など密集地帯での水素供給事業は、工場での使用よりもさらに高い安全性が求められる。そのため、腐食耐性の高い特別な合金など、使用できる部材が限定されており、建設コストも高額にならざるをえない。
また、国内における水素価格の高さも自立化を困難にする要因のひとつだ。水素ステーションで供給する水素はガソリンと等価になるように価格が設定されている。トヨタ自動車やJXTGエネルギーが水素ステーション普及のために設立した日本水素ステーションネットワーク(東京都千代田区) の菅原英喜社長は「仕入値よりも売値の方が安い事業者もいる。水素の元値自体が安くならないとビジネスとしては成り立たない」と危機感を募らせる。
水素基本戦略では、30年頃までに「水素発電の商用化」と「国際水素サプライチェーン構築」との目標が明記されている。果たしてその展望は開けているのだろうか。Wedge4月号特集「脱炭素バブル」では、「水素社会の実現」に向けた技術開発や実証プロジェクトの最前線をレポートした。
■脱炭素バブル したたかな欧州、「やってる感」の日本
Part 1 「脱炭素」ブームの真相 欧州の企みに翻弄される日本
Part 2 再エネ買取制度の抜本改正は国民負担低減に寄与するか?
Part 3 「建設ラッシュ」の洋上風力 普及に向け越えるべき荒波
Part 4 水素社会の理想と現実「死の谷」を越えられるか
Column 世界の水素ビジョンは日本と違う
Column クリーンエネルギーでは鉄とセメントは作れない
Part 5 「環境」で稼ぐ金融業界 ESG投資はサステナブルか?
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