2024年12月22日(日)

脱炭素バブル したたかな欧州、「やってる感」の日本

2020年3月24日

 日本は燃料電池車(FCV)や家庭用燃料電池を普及させ水素の利用を促すが、世界の方向性は少し異なっている。

 欧州は数年前まで水素社会には熱心でなかった。その理由の一つは、運輸部門の脱炭素化をFCVではなく電気自動車(EV)主体で実現しようとしているからだ。FCVの車両本体価格はEVより高く、また水素充填ステーションの設置費も高いことから、欧州はEVを自動車分野の脱炭素の本命と考えている。FCVに対応できない一部欧州自動車メーカーもEVには対応できることも、EV本命の背景にはある。

 しかし、今年2月、ドイツ連邦政府が水素戦略の原案を発表するなど、欧州でも水素利用が本格的に検討され始めた。欧州企業が水素利用の可能性を見いだそうとしているのだ。さらに、欧州が掲げる「2050年温室効果ガス純排出量ゼロ達成」に水素が大きな役割を果たすことが認識され始めたこともある。

ドイツで18年から運転中の水素列車「Coradia iLint」(GETTYIMAGES)

 ドイツでは鉄道網の40%を占めるディーゼル区間での脱炭素化をめざし、すでに2両編成の水素列車「Coradia iLint」が18年9月に商業運転を開始した。21年までに14編成が導入される予定だ。一度の充填で1000キロメートルの運行が可能で、充填ステーションは1つで十分だ。

 ノルウェーでは乗客約300人と80車両を積載可能な水素フェリーの製造が進んでおり、来年就航予定だ。列車は仏アルストム製、船舶はドイツ、デンマーク、ノルウェー企業が協力し作っている。フランス、英国なども水素列車の試験を開始している。

米国はバスとトラック
中国はFCVで日本を猛追

 一方、米国ではカリフォルニア州が大型バス、トラックでの水素利用を進めている。EVでは大型車となると電池重量の面で実用化が難しいが、水素ならば対処できるからだ。乗用車はEV、大型車はFCVとの棲み分けが進む。すでに燃料電池バスが42台、トラックが10台導入されており、バス価格は通常の2倍以上で、1台100万ドル(約1億1000万円)だ。ただ連邦政府は水素関係予算を年々減額しており、全米規模でみると普及の範囲は限定的だ。

 日本、韓国はFCV製造では世界の先頭を走っているが、中国も追いつこうと必死だ。国営企業SAICなどがFCV製造を行っており、昨年は約2800台のFCVを製造、販売している。30年までに100万台の製造を目標としている。

 水素の実用化に向けた課題はコストだ。現在欧州ではいくつかの国で水素製造を再生エネルギーからの電気を利用して行うことを検討している。再エネからの電気で水の電気分解により作られる水素はグリーン水素と呼ばれ、温暖化対策のために必要だが、そのコストは依然として高い。

 安全性の確保も課題だ。昨年6月、ノルウェーの水素ステーションで爆発事故が発生した。事故で全ての水素ステーションが閉鎖され、トヨタ、ヒュンダイもFCVの販売を一時中止した。ノルウェーの事故は部品の製造ミスであることが分かった。韓国でも昨年5月に水素工場の爆発があり、死者が出たことから反対運動も起きた。しかし、韓国政府は水素都市戦略を昨年10月に発表した。

 水素社会がどのような道筋を通り実現するのか、まだ不透明だが、世界での競争に拡大していくことは間違いなさそうだ。しかし、コスト面や安全性の面から課題は多く、実現の道のりは平たんではない。発売中のWedge4月号特集「脱炭素バブル」では、日本における水素活用の取り組みのほか、再エネ買取制度や洋上風力活用の今後の課題などについてもレポートする。

Wedge4月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます
■脱炭素バブル  したたかな欧州、「やってる感」の日本
Part 1  「脱炭素」ブームの真相 欧州の企みに翻弄される日本
Part 2    再エネ買取制度の抜本改正は国民負担低減に寄与するか?
Part 3  「建設ラッシュ」の洋上風力 普及に向け越えるべき荒波
Part 4    水素社会の理想と現実「死の谷」を越えられるか
Column    世界の水素ビジョンは日本と違う
Column    クリーンエネルギーでは鉄とセメントは作れない
Part 5  「環境」で稼ぐ金融業界 ESG投資はサステナブルか?

  
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◆Wedge2020年4月号より

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 

 


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