2024年4月17日(水)

WEDGE REPORT

2020年4月24日

新型コロナで大きく減少する原油需要

 米国で自宅に留まることを要請されている人は3.1億人を超えている。食料品、薬品購入など必要最小限の外出だけ認めている州、郡が多いが、中には銃の購入も必要不可欠として認めている州もある(『米ではコロナウイルス対策に銃と石炭も必要不可欠に、コロナ対策も利用するトランプ大統領』)。外出が減り車の使用はなくなり、ガソリンの消費は大きく落ち込んだ。州をまたぐ人の異動がなくなり、航空機用のジェット燃料消費量はもっと落ち込んだ。

 ガソリンの供給量は、エネルギー省のデータで確認可能な1991年以降最低のレベルまで落ち込んでいる。1991年1.92億台だった米国の登録車数は、2018年2.74億台まで増加した。1991年4月第1週目のガソリン供給量日量換算750万バレルは2019年4月には981万バレルまで増加していた。今年4月4日から10日までの1週間の供給量は508万バレルだ。全米の先頭を切ってカリフォルニア州でロックダウンが開始された直前の3月13日に終わった週には供給量は970万バレルだった。1カ月で供給・消費量はほぼ半分になった。

 3月13日に終わった週のジェット燃料供給量は日量174万バレルだった。前年同期比では11%減だ。翌週から供給量は147万バレル(-18%)、134万バレル(-19%)、76万バレル(-48%)と減少し、4月10日に終わる週には46万バレル(-72%)、封鎖前の4分の1まで落ち込んでしまった。

 全世界の原油需要は新型コロナにより約3分の1減少したと言われているが、全米の全石油製品の需要量はロックダウン前との比較では35%減少している。一方、原油生産数量はほとんど減少していない。石油製品の輸出量を増やすことにより、国内需要の落ち込み分を埋める動きはあるが、その数量は小さく国内でのストックが積みあがっている。その結果、貯油スペースがなくなると予想される5月の先物価格がマイナスになった。

シェール・ブームはどこに行った

 2014年ノースダコタ州の小さな町ウイリストンの家賃が全米で最も高くなった。2000年代後半に商業生産が可能になったシェールガス・オイル生産を行うバッケン油田の中心地になり、労働者が押し寄せたためだった。ベッドルール1つのアパートのひと月の家賃は2394ドル。2位シリコンバレー1881ドル、3位サンフランシスコ1776ドル、6位ニューヨーク1504ドルだった。

 2019年のベッドルーム1つのアパートの家賃は、サンフランシスコ3500ドル、ニューヨーク2750ドル、シリコンバレー2490ドルと上がっているが、ウイリストンはランキングに登場しなくなった。ノースダコタ州の家賃は583ドルだ。空前のシェールオイル・ブームは去ってしまったが、無理もない。2014年前半には100ドルを超えていたWTIのスポット価格(図-1)は、4月21日8.91ドル、国際指標の欧州ブレントも9.12ドルだ。

 この原油価格では、最もコスト競争力があると言われるサウジアラビアでも利益をあげることはできない。サウジアラビアの国家予算歳入の87%は1バレル80ドルと想定されている原油収入に依存していると言われている。ロシアのコストはサウジアラビアよりも高いとされるので、苦しい事情は変わらない。サウジアラビア、ロシアよりも採掘コストが高いとされているのは米国のシェールオイル生産だ。

 米国の原油生産量は、シェールオイルの生産により図-2の通り大きく伸び世界一になった。エネルギー省によると、2019年の原油生産量の63%、日量換算770万バレルはシェール層から生産されたと推測されている。その生産の約半分はテキサス州とニューメキシコ州にまたがるパーミアン油田から産出されている。

 全米の採油事業者は約9000社と言われる。そのすべてがシェールオイルの採油に従事しているわけではないが、ロイター電はオキシデンタル石油など限られた数の企業だけバレル30ドル以下のコストで採掘しているとのコンサルタントの分析を伝えている。現状の原油価格では大半の事業者が生産から撤退せざるを得ず、破綻する事業者も出てくることになる。4月のシェールオイルの生産見込み量は、当初予想より減少するものの900万バレル弱になるとエネルギー省は予想している。感染により大きく落ち込んだ原油需要に合わせた生産量への調整は簡単ではなさそうだ。


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