消費者負担額上昇の懸念
ドイツは2000年にFITを導入したが、2010年頃から太陽光発電設備導入が増加し、電気料金によるFITの賦課金額、負担額も急増した。2010年1kWh当たり2.04ユーロセント(2.5円)であった賦課金額は2014年には6.24セント(7.5円)に達した。ドイツ政府は、2014年固定価格を小型設備だけに適用することにし、事業用設備には入札と市場価格にプレミアムを支払う制度への変更により消費者負担額、賦課金額の抑制を行った。この政策変更により負担額は抑制されたが、それまでに導入された設備に対する負担額は直ぐには減少しないので、2014年以降賦課金額はほぼ同額で推移している。また、FITにより上昇した家庭用電気料金も高止まり状態になった(図-4)。
電力卸価格のマイナス時間が増えたことにより、FIT制度に基づく再エネ事業者への支払額は増えるが、電力消費量が減少し今年の消費者負担の賦課金総額は減ることになった。不足分をまなかうため来年と2022年のFIT賦課金額は上昇する見込みだ。試算では今年の賦課金額6.76セントは来年8セントを超えるとされている。kWh当たり1.5セントの値上がりがあると、夫婦と子供1人の標準家庭の電気料金は、年間約60ユーロ値上がりすることになる。
ドイツでは再エネから発電される電気の引き取りは優先されているが、送電への影響があり引き取れない時には出力制御を行っている。風量に恵まれた北部に洋上風力設備の建設が進んでいるが、工業地帯である南部への送電能力が不足しているため余剰電力が生じた時には近隣諸国への輸出が試みられる。需要がなく輸出も不可能な時には風力発電設備を中心に出力制御が行われているが、再エネ事業者には補償が行われることが法に定められている。2019年の出力制御の数量は、64.82億kWh、太陽光と風力発電量の3.7%に相当し、補償額は7.1億ユーロ(850億円)に達している。需要の落ち込みもあり今年はさらに制御量が増加することが予想される。この費用も消費者負担になる。
ドイツの家庭用電気料金は、昨年前半にはデンマークを抜き世界一高くなった。昨年後半にはわずかながら下落したため今は世界2位になったが、1セント以上の値上がりがあれば再び世界一になりそうだ。ドイツ政府は電気料金を抑制するため新型コロナ対策予算を用い、来年と2022年の消費者負担額に上限を設定し、FIT財源の不足分を負担することを決めた。
電気料金抑制に税金を投入するドイツ
ドイツ政府は、新型コロナにより落ち込んだ経済を刺激するため1300億ユーロ(15.6兆円)の予算投入を6月3日発表した。「付加価値税を今年7月1日から12月31日までの期間2%から3%引き下げる」などの政策が含まれているが、この予算のうち300億ユーロ(3.6兆円)がエネルギー関係部門に投入される。
電気料金上昇を防ぎ、消費者負担額を抑制する目的で、再エネ賦課金の安定化に110億ユーロを投入し、賦課金額を1kWh当たり来年6.5セント、2022年6セントに抑制する。さらに、水素製造設備と関連インフラ開発に70億ユーロ、海外で水素製造を行いドイツへ輸入する事業に20億ユーロ、合計90億ユーロが水素戦略に当てられている。電気自動車関連技術、バッテリー技術開発、電気自動車購入補助金増額、電気自動車の税免除延長、充電設備充実などのeモビリティ関連に70億ユーロ、住宅、ビルの省エネ事業に20億ユーロが割り振られている。
電気料金抑制に動くドイツ政府だが、今年7月国会を通過した脱石炭法により電気料金が上昇するのではとの懸念が国民の間にはある。