実は「増税で経済成長」という発想は本質的にはこの花見酒となんら変わるところはない。なぜなら、増税分を社会保障分野の支出に回したとしても、社会保障分野は主にサービス業であり生産能力の増加につながる投資が増える性質のものではないからである。
また、雇用と所得の増加が消費の増加をもたらすと言っても、その原資は元々は誰かの所得の一部であったわけであるから、増税による資源の吸い上げは所得再分配を惹起するものの、落語の花見酒と同じく、お金を右から左に流すだけに過ぎないため、一国経済レベルで見れば当然、日本の富が抜本的に増加したことにはならない。
要するに、増税で社会保障を強化し経済成長につなげるためには、それが、新規産業の創出にまで至るかが重要なポイントである。この点については、菅前内閣の新成長戦略よりも現内閣の医療イノベーション5カ年戦略の方が、医療分野における新規イノベーションを活発にすることにより新たな付加価値の積極的な創造につながるため、経済成長へのつながりをより明確に意識していると評価できるだろう。
自由診療を増やす効果
デフレ、人口減少等で経済のサイズが縮みゆく日本経済にあっては、医療分野の発展や医療分野が製造業等他の分野との融合によって生じる新規産業の創造による外貨の獲得は魅力的であろう。
こうしたリーディング産業としての医療分野をさらに拡充するには、医療機器や医薬品を輸出するだけではなく、例えば、一つはアジア諸国の扶養層を対象とした高度医療サービスを提供したり、人間ドックと観光を結び付けたりすることなどが考えられる。
もう一つは、自由診療を増やすことだ。現在の公的な医療保険体制では実際の医療費の2~3割の負担でその医療が受けられる半面、保険診療には非常に細かい規定があり、各疾患に応じて検査や治療内容等はその制限内で行わなければならない決まりとなっている。一方、自由診療(保険外診療)はその治療費は患者の全額自己負担となるものの、「自由」という名称の通り、治療内容はもとより治療費を医療機関が独自に決めることができる。