海野素央の Love Trumps Hate

2020年9月3日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

(AP/AFLO)

 今回のテーマは、「テレビ討論会の見どころ」です。2020年米大統領選挙の関心は、共和・民主両党の正副大統領候補によるテレビ討論会に移ります。まず、9月29日に1回目の大統領候補の討論会が開催されます。その後、10月15日及び22日に2回目と3回目の討論会が予定されています。

 一方、副大統領候補の討論会は10月7日に行われます。そこで本稿では、テレビ討論会の見どころを探ります。

「法と秩序」のからくり

 トランプ大統領はテレビ討論会で「法と秩序」を強調する戦略をとることは間違いないでしょう。米国民の目を新型コロナ対策の失敗から暴動に向けさせる狙いがあります。

 人種差別に反対する抗議デモは大半が平和的デモですが、トランプ氏は暴徒化したデモに焦点を当てています。討論会において「暴動を食い止める唯一の方法は力である」と語気を強め、「法と秩序」に訴えて、自分を「強いリーダー」に描きます。

 確かに「法と秩序」は視聴者にとって心地がよいかもしれません。ただ、トランプ大統領の「法と秩序」にはからくりが存在します。

 言うまでもなく、法を執行し秩序を守るのは警察官です。その警察官には白人警察官がいます。彼らはトランプ大統領の支持基盤です。

 つまり、「法と秩序」は暴動を鎮静化する手段であると同時に、支持基盤に対するアピールでもあるわけです。トランプ氏は「法と秩序」を通じて、「白人警察官支持」のメッセージを発信しているのです。

バイデンの「安全」と問いかけ

 これに対して、バイデン氏は討論会で「トランプ大統領は新型コロナウイルスと人種差別から米国民を守れなかった」と切り返すでしょう。加えて、「戦時下の大統領はコロナの戦場から逃げて、白旗を振っている」と反論して、トランプ大統領を「弱いリーダー」に描きます。トランプ氏は当初、自身を目に見えない敵(新型コロナウイルス)と戦う「戦時下の大統領」と自分を呼んでいたからです。

 バイデン氏はトランプ大統領がコロナ対応及び高い失業率に関する討論では分が悪いので、暴動を主要な争点に変えたことを完全に見抜いています。

 そこで、バイデン氏は新型コロナウイルス、失業率並びに暴動を切り離さずに議論して、「トランプのアメリカは安全か?」と有権者に問いかけて迫ります。つまり、バイデン氏の討論会の主たる目的は、新型コロナウイルス感染拡大や高い失業率で不安な心理状態に陥っている中西部ミシガン州などの激戦州の有権者に、「トランプのアメリカは安全ではない」という意識を強く植えつけることです。

 心理学的視点から述べれば、バイデン氏は人間の基本的欲求の1つである「安全欲求」に訴えて支持獲得を狙っています。新型コロナ感染拡大と暴動に直面している有権者に向かって、「次の4年間は米国を安全にする」と述べて、固い決意を示すでしょう。

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