2024年12月23日(月)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年8月27日

(AP/AFLO)

 今回のテーマは、「トランプは共和党全国大会で何を語るのか?」です。与党共和党の全国党大会2日目が終了しました。今回の党大会にはどのような特徴があるのでしょうか。

 また、ドナルド・トランプ大統領は大統領候補指名受諾演説で何を語るでしょうか。本稿では、共和・民主両党の党大会を比較しながら、トランプ大統領の指名受諾演説について述べます。

黒人起用の理由

 共和党は党大会の1日目から、多くの黒人の演説者を起用してきました。南部ジョージア州の下院議員、メリーランド州の下院議員候補、セントルイスの地方検事などです。基調演説者は共和党上院で唯一の黒人議員ティム・スコット氏(南部サウスカロライナ州)でした。

 なぜ、共和党は1日目に黒人の演説者を集めたのでしょうか。少なくとも3つの狙いがあります。

 第1に、米史上初の黒人女性の民主党副大統領候補が正式に決まったカマラ・ハリス上院議員(西部カリフォルニア州)を強く意識したのでしょう。バイデン氏の黒人票を減らす狙いがありました。

 第2に、人種・民族において文化的多様性に富んだ民主党に対抗して、白人中心の共和党が「多様性」を演出しました。スコット上院議員の演説の前に、インド系のニッキー・ヘイリー米前国連大使が登場し演説を行ったのも、多様性をアピールして、アジア系を含めた少数派の票を獲得する意図があります。

 ただ多様性について補足すると、民主党全国党大会では1日目から共和党関係者が演説を行いました。これに対して、2日目の共和党全国党大会が終了した時点で、民主党の大物政治家は同党大会で演説をしていません。民主党の多様性には党派を超えた多様性も含まれています。

 第3に、黒人の演説者がトランプ大統領を称賛して、同大統領の人種差別者のイメージを払拭する思惑があります。

英国のYouGov社による世論調査(2020年7月11~14日実施)によれば、「ドナルド・トランプは人種差別者だと思うか」という質問に対して、50%が「はい」と回答しました。一方、「いいえ」と答えたのは37%です。

 米世論調査機関「リアル・クリア・ポリティックス」によれば、各種世論調査によるトランプ大統領の平均支持率は43%です。ということは、トランプ支持者の中で6%が「トランプは人種差別者」だと認識していることになります。

 ちなみに、YouGov社の世論調査では、「ジョー・バイデンは人種差別者だと思うか」という質問に対して、24%が「はい」、48%が「いいえ」と回答しました。

 ヘイリー米前国連大使は、「米国は人種差別の国ではない」と語気を強めました。余談ですが、ヘイリー氏は24年米大統領選挙の有力な共和党大統領候補の1人です。仮に大統領候補の指名を獲得してハリス氏と対戦することになれば、インド系女性同士の対決になります。米史上初の非白人の女性大統領が誕生するかもしれません。

コロナ対応の「歴史認識」

 米国における新型コロナウイルスによる死者数は17万8000人を突破しました(日本時間8月26日時点)。11月3日の米大統領選挙の投票日までに推計で死者数は21万人に達します。当初、トランプ大統領は死者数が「10万人であればいい仕事をしたことになる」とビジネス感覚で語っていました。数字にかなり隔たりが生じます。

 そこで、トランプ氏は指名受諾演説で、コロナ対応に関する有権者の「歴史認識」を変える戦略に出るでしょう。というのは、トランプ大統領は「コロナ対策に失敗した大統領」として、歴史に刻まれる可能性が高いからです。

 ただ、一発の指名受諾演説のみでは困難でしょう。歴史認識を変えるには、ワクチン開発が鍵を握ります。トランプ大統領はワクチンの安全性及び有効性を無視して、11月3日の直前に強引に「ワクチン開発宣言」をするかもしれません。それをオクトーバー・サプライズにする訳です。


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