西側テロを画策する最凶組織
殺害された幹部が属している「フラス・アルディン」は米国が最凶のテロ組織として狙い続けてきたグループだ。同組織は元々、アフガニスタンに潜伏していると見られるアルカイダの指導者アイマン・ザワヒリが西側権益を攻撃させるためシリアに設置させたもので、当初は「ホラサン・グループ」と呼ばれた。
シリアのアルカイダ分派だった旧ヌスラ戦線(現シリア解放委員会)がアルカイダと決別宣言した後、過激な思想を持つ面々が集まって2018年、「ホラサン・グループ」の後継組織として「フラス・アルディン」を立ち上げた。その後、米国の空爆によって大きな打撃を受けたものの、現在はイドリブ県に約2000人の戦闘員が残っているといわれる。シリア北西部はロシアが制空権を握っているため、米国の空爆に抑制が掛かったおかげで生き延びたようだ。
同組織の存在が知られるところとなったのは昨年10月、過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者だったバグダディが米軍の急襲によりイドリブ県で殺害された時だ。バグダディに隠れ家を提供していたのが「フラス・アルディン」の司令官だったからだ。ISとは犬猿の仲だっただけに、バグダディから用心棒代を受け取って匿っていたことに、世界中のテロ専門家らが仰天した。
イドリブ県はシリア内戦で残った反体制派の最後の拠点だ。現在は全土制圧を目指すアサド・シリア政権軍がロシア軍機の支援で、同県への攻勢の機会をうかがっているが、トルコ軍がシリアに侵攻し、にらみを利かせているためアサド政権、ロシア、トルコが三すくみのような膠着状態が続いている。
県内に立てこもる最大勢力はアルカイダとの関係を切ったと主張する「シリア解放委員会」で、その勢力は約3万人。またトルコが支援する反体制派「国家解放戦線」も同程度の勢力規模だといわれる。「シリア解放委員会」は自分たちの占領地域をISと同様に「国家」と呼び、同県の支配体制の強化を図っている。最近では、外国人の過激派追放に乗り出し、「フラス・アルディン」との間で交戦に発展、緊張が高まっている。
シリアでは、内戦で家を失った難民が人口の半分以上の1400万人にも達し、イドリブ県の住民300万人のうち、100万人が難民化している悲惨な状況だ。だが、各勢力がそれぞれの権益確保に狂奔している現状では和平の展望は暗い。なによりも、中東に介入し続け、現在の混乱の原因の一端を作った米国が逃げにかかっているのは無責任以外のなにものでもないだろう。米国にはテロリストの掃討と同じように、シリアの平和実現に傾注してもらいたい。
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