2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年10月26日

 フランスでは、6月の市長選で当選した緑の党の市長たちが環境原理主義から過激な主張をし始めたことが物議を醸している。

nobtis / iStock / Getty Images Plus

 ボルドー市のユルミック市長は9月、毎年恒例の巨大なクリスマスツリーを設置しないと発表した。同氏によれば、17メートルの大木を森から切り出して国土を横断して遥々と運んでくることを正当化できない、とのことである。リヨン市のドゥセ市長は、自動車レース、ツール・ド・フランスを「マッチョ」で「公害」だと非難した。一方、グルノーブル市ではピオーレ市長が、5Gネットワークの展開を阻止すると発言した。同氏に言わせると「5G技術は、人々がスキーリフトの中でさえもポルノを見ることができるようにするために設計されたようなもの」であるらしい。

 これらの意見は、緑の党の公式な立場ではなく、環境重視の立場から個人の意見として勝手に表明したものである。しかし、5Gに対するグルノーブル市長の反対は政府の政策と対立するもので、市長の権限を超える問題もあり、今後の成り行きが注目される。このような国家全体にかかわることで市長が勝手に発言するのでは、緑の党は公党としての統制が取れておらず、政権担当能力も疑問視されることになる。

 マクロン大統領は、緑の党が「アーミッシュ・モデル(農牧業による自給自足)」を目指していると批判している。これは、政治勢力としての緑の党についての警戒心を示すものである。マクロンにとっては、仮に次期大統領選挙に緑の党から立候補があれば、自らの支持基盤となった大統領選挙での大都市の票田を奪われることになりかねず重大な脅威となる。

 9月末に行われた上院の議席の半数を改選する上院議員選挙の結果は、右派の共和国派が引き続き過半数を確保し、マクロンの「共和国前進」は議席を大幅に伸ばすことはできなかったが現有議席を確保した。他方、緑の党も12議席を獲得し、上院における政治グループとして認知されることになり、緑の党には公党としてより責任ある行動が求められる。

 6月の地方選挙では、大都市の票を獲得し地域によって左派とも組んで国民戦線の右派ポピュリズムを押さえる役割を果たしたとも評価された。今後、実際に政権を取ることを狙うのであれば、環境問題以外の内外の重要政策について党内の意見を集約しその立場を明らかにする必要がある。反経済成長の環境原理主義的な過激派も多い緑の党が果たしてそのような政権構想をまとめることができるのか、そのような求心力あるリーダーシップを取れる指導者がいるのか、疑問もある。

  
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