世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年10月17日

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 9月29日、オーストリアで総選挙が実施され、これまで中道右派の国民党と連立を組んでいた極右の自由党が大敗を喫した。今回の総選挙は国民党の連立政権のパートナーであった自由党のシュトラッヘ党首(副首相)が、ロシア人投資家と称する人物に対し、選挙支援の見返りに便宜供与を申し出た疑惑が浮上したため、国民党党首で首相のクルツが自由党との連立を解消し、その結果行われたものである。

Sapunkele/Ecelop/iStock / Getty Images Plus

 今回の総選挙の特色は、第一に中道右派の勝利である。中道右派の国民党は前回の2017年の選挙の得票率32%を上回る37.5%を獲得し、前回より9議席多い71議席を獲得した(オーストリア内務省数字。以下同様)。中道右派は最近欧州各国で苦戦しているが、自由党のスキャンダルがあったとはいえ、今回の国民党の勝利はオーストリアのみならず、欧州にとって朗報である。今回、極右は惨敗した。自由党の大敗の直接の原因はスキャンダルであろうが、得票率は16.2%と前回の26%を大きく割り込み、議席数も前回より12少なく40議席と大きく減った。なお、シュトラッヘ氏は総選挙での大敗を受け、党首を辞任することを表明した。

 欧州では極右勢力の伸長が目立ち、フランスのル・ペンの国民連合が勢力を盛り返しているほか、ドイツでは「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢いを増している。AfDは9月1日に行われたザクセン州とブランデンブルグ州の両州で躍進し、注目された。他方でイタリアでは同盟が連立政権から離脱し、最近は支持率が急落している。5月に行われた欧州議会選挙で極右政党は伸び悩んだ。10月1日付けのフィナンシャル・タイムズ社説‘Wunderkind Sebastian Kurz can blaze a trail for Europe’は、「今年は欧州の極右にとって悪い年であった」と言っているが、それは、今回の自由党の惨敗に加え、このような事情を指している。

 今回の総選挙のもう一つの特色は緑の党の躍進である。緑の党は総選挙では13.8%の得票を獲得し、議会で初めて26議席を獲得した。5月に行われた欧州議会選挙でも「緑の党」系の環境政党の躍進が目立った。これまでの「欧州人民党グループ」(中道右派)と「社会民主進歩同盟」(中道左派)の二大政党が大きく議席を減らし過半数を割って分極化が進んだ欧州議会で、4番目に大きな会派となり多数派形成のカギを握るまでになった。これは環境問題に対する関心が世界的にこれまでになく高まった事情を背景とするものである。

 第三の特色は、中道左派の退潮である。今回、2位の社会民主党は22%しか得票できなかった。約38%を獲得した第1党国民党との差16%という数字は、過去70年間で最大であった。

 クルツの国民党は全議席183のうち71議席しかないので、連立を組む必要がある。連立交渉は難航し、連立の合意にはかなりの時間を要するであろう。大敗した極右の自由党との連立は考え難い。一方、戦後、大連立がオーストリアを支配することが多かったが、クルツはそうした大連立に反対してきた。従って、中道左派との連立はありそうにない。ありえそうな可能性として残るのは、支持率を4%から8%に急増させ26議席を獲得した緑の党、それに、15議席を獲得した自由主義のNEOS(新オーストリア党)との連立である。クルツの反移民発言、「政治イスラム」の台頭への警告、伝統的家族価値の重視は、緑の党の活動家と相いれず、大きな政策の違いがあるが、クルツが打ち出している環境保護と二酸化炭素排出規制は両党の支持者にアピールする可能性がある。

 オーストリアは大国ではないが欧州の政治のバロメーター的な側面を持っている。今回の総選挙での極右の敗退、緑の党の躍進、中道左派の退潮は、いずれも最近の欧州政治に見られる特徴を表している(極右がこのまま力を失っていくと決めつけるのは尚早だろうが)。上記フィナンシャル・タイムズ社説は「近年オーストリアは欧州の政治の実験場のようになった」と評している。

  
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