12月19日付の英エコノミスト誌が、オーストリアにおける極右の自由党の政権入りが波紋を呼ばなかったのは、欧州の変化でもあるという解説記事を書いています。その要旨は以下の通りです。
中道右派の国民党と右翼の自由党の連立合意の発表が殆ど何の騒ぎにもならなかった。2000年に両党が政権を構成した時には、外交上の制裁を誘発し、訪問や会合がキャンセルされたが、今回はそれもない。ドイツやEUには、ハンガリーやポーランドの権威主義的首脳と緊密な関係にある自由党が外務、内務、国防を管轄することには懸念がある。しかし、オーストリアは、かねてからロシアにはハト派であり、移民とイスラムの問題についてはメルケルではなく中欧諸国に近かった。また、従来EU関係事項は外務省の所管であったが、これを今回、セバスティアン・クルツ首相が所掌することとしている。
もし、2000年のオーストリアが最近のポピュリストの台頭の先駆けであったとすれば、今回の新政権もより広い傾向を示すものかもしれない。クルツは7月に国民党の党首に就いたばかりであるが、政界の外の人材を候補者に擁立するという近代的な手法を用いるとともに、経済の立て直しを公約し、犯罪と移民について断固とした右翼の立場を取ることによって国民党を第三党から第一党に押し上げた。この状況に欧州の保守勢力は注目している。
他方、ハインツ=クリスティアン・シュトラーヒェ率いる自由党の復活はポピュリストのナショナリストにとってのモデルである。彼は党に若さのイメージを与え、ソーシャル・メディアを活用した。自由党のかつての反ユダヤ主義を排除し、代わりに反イスラムをその信条にした。
連立合意は両名の政策を合成したものである。難民に対する生活費は半分以下に削減し月額365ユーロとする。難民は到着時に所持する現金は供出する必要がある。医療記録の秘密の解除を求められることがある。イスラムの学校は綿密に監視され、ルールに違反し、外国の資金を受け取っていると閉鎖される。
しかし、クルツは自由党からの圧力を避けることが出来るか。ウィーンではクルツをキャメロン英元首相になぞらえる向きがある。EU離脱の可否を問う国民投票はないが、クルツは圧力に屈してEUと事を構え、東欧のナショナリストの政府に接近することにならないか。「オーストリア政府は欧州で引き続き建設的役割を果たすと信じる」とトゥスクEU大統領は述べた。これは隠された警告である。
出典:Economist ‘A new coalition in Austria brings the far right in from the cold’ (December 19, 2017)
https://www.economist.com/news/europe/21732834-austria-edging-closer-nationalist-governments-eastern-europe-new-coalition