世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年1月29日

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 昨年10月15日の下院選挙の結果は、定数183のうち、国民党62議席、社民党52議席、自由党51議席となりました。国民党は自由党と連立交渉を行い、12月18日、極右政党である自由党参加の連立政権が発足しました。国民党のセバスティアン・クルツ党首が首相(31歳、世界で最も若い首相)、自由党のハインツ=クリスティアン・シュトラーヒェ党首が副首相に就任しました。

 この記事が指摘するように、極右の自由党の政権入りは特段の波紋を呼ぶことにはなりませんでした。それだけ欧州が変わったということでもあります。2000年の両党による政権発足の際には、イスラエルが大使を召還しEU諸国が外交上の制裁を発動するに至りました。今や殆どすべての欧州諸国に自由党と同様の主張を掲げる政党があります。ポーランドやハンガリーが進めている非自由主義的な政策を見れば、自由党の政権入りに異を唱え得る事情にはありません。ナチズムとの歴史的な繋がりや一頃の反ユダヤ主義がなければ、誰も自由党に注意を払うことすらなかったかも知れません。

 クルツは国民党の路線を右にシフトさせました。選挙戦の支配的問題の移民・難民問題ですが、戦略に長けたクルツは、2015年、百万の難民がオーストリアを抜けて北上した時期に(当時、彼は社民党と国民党の連立政権の外相でした)、国民の感情が寛容から恐怖と怒りにシフトするのを感じ取り、自由党顔負けの難民に厳しい政策を打ち出しました。2016年には難民が北上するバルカン・ルートの閉鎖を主導しました。

 従って、クルツが連立の相手に自由党を選択したのは自然の成り行きです。自由党もまた政権入りを望んでいました。新政権の陣容で少々驚かされるのは自由党が副首相に加え外相、内相、国防相という政権の中枢のポストを握ったことです。どうしてここまで譲る必要があったのかはよく判りません。警察と軍をそれぞれ握る内相と国防相は生粋の右翼らしいです。外相に起用されたカリン・クナイセルは自由党員ではないですが、自由党とは緊密な関係にあるらしいです。外務省に勤務の経験があります。教職の経験があり、ジャーナリストでもあります。欧州委員会のユンケル委員長を痛烈に批判してみたり、物議を醸したりする言動もあるようです。

 そのことと関係があるかどうかは判りませんが、EU関係の事務は首相府に移管されました。今後、オーストリアの外交、就中EUとの関係がどういう風に展開するかには不安があります。この記事が言及するように、EUと衝突し、ポーランドやハンガリーに接近するということもあるのかも知れませんが、占うには時期尚早です。本年後半にはEUの議長国となるので、何らかの手掛かりが見えて来るかも知れません。 

  
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