11月3日の米国大統領選挙は、共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン候補が接戦となり、コロナ禍で郵便投票や期日前投票も多く、集計が何日も持ち越された州もあった。結局、ペンシルバニア州を制したバイデン候補が勝利に必要な選挙人の過半数(270人以上)を獲得し、11月7日夜(日本時間8日午前)、地元デラウェア州で勝利宣言を行なった。
バイデンは、自分は米国を団結に導くよう、民主党と共和党の協力を求め、自分に投票しなかった人々も含め米国人の大統領として働くと述べた。「分断させるのではなく、結束させる大統領になることを誓う」と言った。
11月9日にも専門家を指名し、政権移行チームのアドヴァイザーとして科学的見地から対策を練り、来年1月20日(大統領就任日)に備えるとした。
新型コロナ・ウィルスを収束させ、経済の立て直し、人種間の平等の確保、環境政策等にも積極的に取り組むとした。
バイデンは、米国を「可能性」の国として、全ての米国人が夢を追求できる、素晴らしい国であると、米国人を鼓舞した。
ほんの15分程度のスピーチであるが、米国の次期大統領として、米国人全体に訴えかけた演説は、多くの人達を感動させただろう。直前に演説したハリス副大統領候補も、初の女性副大統領の誕生を前に、自分は初だろうが最後ではないだろう、今後続く少女たちに希望を与える、と述べ、米国は「可能性の国」ということを改めて示した。オバマ大統領が米国史上初の黒人大統領と決まったシカゴでの「勝利宣言」を思い出す。
バイデンは、演説の中で、しばしば、全ての米国人に結束と協力を呼び掛けた。それは、裏を返せば、それだけ米国が分断し、対立が頻繁に起こっていることの証である。民主党と共和党の対立、黒人と白人の対立、宗教的対立、雇用の奪い合い等、様々な問題が米国社会には存在している。その中で求心力を得てきたのが極左や極右であり、社会主義や白人主義等、米国の民主主義や多様な文化的価値の尊重とは相容れない主張を掲げる人達である。
そのような状況下で、今回のバイデン次期大統領の登場は大きな意味があろう。1つは、彼は、思想的に、中道派であり、現実主義者である。2つ目に、バイデンは、30年以上の上院議員生活を通じ、議会運営がわかっている。3つ目は、彼は、オバマ政権8年間の副大統領として、行政府である大統領府の動かし方も分かっている。4つ目は、次期副大統領に指名したハリスは、検察官等を歴任し司法にも精通している。また、バイデンが高齢・白人であり、ハリスが女性・黒人というのは、補完し合って米国社会に対応することが出来る。
バイデンは、「勝利宣言」の中で、自分はあくまで「米国民」の大統領として振舞うことを誓った。米国は、あくまで‘United States’ (国家のような様々な州が一つにまとまったもの:合衆国)であるとも述べている。米国の次期政権が、協力と協調を重視し、アジアで最も緊密な同盟関係を築いている日本とも、安全保障や経済等様々な分野で協力できるか(因みにバイデンは上院外交委員会委員長の経験もある)。菅総理が安倍政権を約8年間支え、バイデンがオバマ政権を8年支えてきた。この2人が首脳として日米関係をさらに強化し、環境政策で協調したり、「自由で開かれた」インド太平洋の発展に寄与したりできるか、注視していく必要がある。
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