世界の記述

2020年11月10日

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 トランプ米大統領の手で過去4年、最も打撃を受けたのは何だろう。「真実」「知性」「地球環境」「国際機関」「中国」と次々に浮かんでくるが、最も痛い目に遭ったのは米国内に暮らす外国人だろう。「移民の国・アメリカ」という古くからの看板は踏みにじられ、この国を目指す人々、さまざまな民族が共存する「実験国家」のイメージは地に落ちた。トランプ氏が消えても、イメージを回復するのは容易ではない。

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 米国の大学を卒業し、トランプ政権が誕生した2017年に大学院を終えた日本女性(27歳)はすぐに異変に気づいた。通常、大学院を出たあと、2年間は学生ビザが有効なのに移民局から「政権交代で1年になった」と通告されたのだ。この女性は翌18年秋に米国男性と結婚し、国籍は日本のまま、グリーンカードを申請したが、移民やビザ専門の弁護士に30万円相当を支払い、ようやく1年がかりで取得できた。従来ならすぐに取れたものだった。

 トランプ政権下ではこうした「合法的な移民」でさえもが締め付けに遭っている。つまり、「メキシコ国境に壁を築く」「イスラム教徒を入国させない」といった大雑把な公約の裏で、トランプ氏らは実に几帳面に移民、外国人、特に白人以外の外国人排除に取り組んできた。

 第二次大戦中に米兵として闘ったフィリピン出身の退役軍人は従来、合法的に親戚を米国に呼び寄せることができたが、ニューヨークタイムズ紙によると、政権はこの制度を19年8月に廃止した。また、長年米国内に暮らし、税も年金も納めてきたメキシコ移民が突然、国外追放されている。こうした例からも、トランプ氏が着実に「移民国家」を破壊しようとしていることがわかる。ブルッキングス研究所のフレイ上席研究員によるとトランプ政権下、移民政策について、法改正や通達など400もの施策がなされてきた。

 国境警備局はメキシコからの越境者を乳児であっても無差別に拘束できるようになり、移民予備軍に家族がバラバラとなる恐怖を植えつけた。

 中米からの移民については、各国政府に外交や関税交渉なで圧力をかけ、グアテマラやホンジュラスに、移民希望者を留め置かせている。また、亡命申請者もメキシコ国境に長蛇の列を作らせ、許可が下りるのはオバマ時代の10分の1程度という現実を突きつける。

 その結果、19年の米国への移民数は約60万人と、トランプ政権発足前の16年のほぼ半数に減った。国内にいる外国人の拘束から、人権無視の長期間の国境待機など、さまざまな負の事例を見せつけることで、米国へと向かう意欲を減退させてきたのが大きい。

 トランプ政権が終われば即座に改まる政策もあるが、細かく張り巡らされた400もの施策一つ一つを覆すには4年はかかるという見方もある。政権交代後も、民主党がそこに真っ先に手をつけるかは疑問であり、トランプ氏が築いた「反移民国家」はイメージだけでなく、細部の復旧に相当な手間がかかりそうだ。

  
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