Washington Files

2020年11月8日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

トランプ大統領は3日投票日の前日までなりふり構わずあわただしく各州を飛び回り、必死の巻き返しを図ったが、ついに再選を果たせなかった。以下に敗因を検証する―。

バイデン氏の勝利を喜ぶ支持者(AP/AFLO)

2016年との違い

 前回大統領選では投票日直前までクリントン民主党候補がリードしていたにもかかわらず、最後に逆転されたことから、多くの米メディアでは今回も4年前同様、劣勢だったトランプ氏がミシガン、ウイスコンシン、ペンシルバニアなどの接戦州を制し再選されるとの見方が少なくなかった。わが国でも、その逆転劇の再現を期待する論調まで見られた。

 しかし、前回との大きな違いは第一に、トランプ氏は今回、在野の挑戦者としてではなく、現職大統領としての4年近くの実績を厳しく問われる選挙となったことだ。とくに「再び偉大なアメリカを! Make America Great Again(MAGA)」のスローガンを前面に掲げて登場したにもかかわらず、国民が受け止めたアメリカの今日の現状は「MAGA」とは程遠いものだった。「偉大なアメリカ」どころか、アメリカの世界における信頼はこの4年間に、著しく低下した。人種差別問題でも、「白人至上主義者」の過激な運動に理解を示すなど、アメリカ社会の分裂を拡大させる結果となった。世界最多の感染者数、死者数となったコロナ禍の惨状についても、国民の大半は大統領としての失政ぶりを手厳しく批判した。経済は持ち直したものの、医療・福祉、環境、教育などの重要国内政策はほとんど手づかず状態のままだった。

 第二に、属性別に見た有権者投票動向の劇的変化がある。すなわち、2016年選挙では、65歳以上の高齢者、都市郊外居住者、白人女性、無党派層、軍人・退役軍人・軍属の大半がトランプ候補支持に回ったが、今回は逆にバイデン民主党候補支持が大半を占めた。

 第三に、民主、共和両党の「党員」「党支持者」数の変化がある。すなわち、男性、女性ともに2016年より、民主党側のシェアが拡大したのに対し、共和党は減少してきた。特に今回、Pew Research世論調査によると、女性で「民主党員」「民主党支持」の立場を事前に明らかにした回答者は56%に達し、「共和党」側の38%を大きく上回った。しかも、近年、全米での女性投票率は男性投票率を上回る傾向があり、今回とくに、女性有権者間でのトランプ不人気が選挙結果に与えた影響も無視できない。

 第四に、トランプ氏が戦った相手の違いがある。前回選挙ではヒラリー・クリントン民主党候補が、男勝りの言動などを理由に多くの女性層の反発を招いたのに加え、国務長官執務時代の私的メール問題が選挙戦の最後まで足かせとなった。当初からトランプ氏にとっては比較的くみしやすい相手だったといえる。

 それでもトランプ氏は、本選では総得票数で300万票以上もクリントン氏に差を許すなど、最後まで苦戦を強いられた。結果的には「辛勝」だった。これに対し、バイデン候補は選挙戦を通じ終始「好感度」においても安定してトランプ氏を上回り、主だったスキャンダルで足をすくわれることもなかった。政治手腕では、過去8年間、オバマ政権下で副大統領を務めてきただけに、それだけトランプ氏にとっては手ごわい相手となった。

剥がされた金メッキ体質と資質

 トランプ氏は前回選挙で、アメリカン・ドリームを体現する「最も成功した億万長者」として多くの支持を集め当選を果たした。しかし、大統領就任後、自らが所有するフロリダ州のリゾート施設、ワシントンの高級ホテルなどを私用で頻繁に利用し、自身が所有する企業収益の増収を図るなど、あけすけな公費乱用ぶりが世間の批判にさらされた。

 たとえば、フロリダのリゾートの場合、在任中、100回以上にわたり滞在、そのたびに投じられた大統領専用機エアフォースワン関連費用、多数の警護要員随行、ゲストを招いてのパーティー費用などの公費乱用は莫大な額に達し、マスコミの批判にさらされてきた。

 自らが豪語してきた「億万長者」のトレードマークについても、過去の営業実態が明るみになるにつれ多くの疑念が浮上した。その一つは、所得税の納税申告をめぐる疑惑だ。ニューヨーク・タイムズ紙などの調査報道によると、大統領就任前の過去10年間にわたり、ほとんど税金を支払っていなかったほか、就任後も、2017年、2018年の2年間の所得税納税額がいずれも750ドルにとどまった。その理由として、事業展開のための負債がかさみ、収入のほとんどを返済に回したことなどが挙げられている。

 大統領としての「資質」も4年足らずの間に、その中身が世間の前に丸裸にされた。トランプ氏はホワイトハウス入りして以来、ほとんど毎日のように執務室や自室から民主党攻撃のツイートを発信してきたが、ワシントン・ポスト紙の事実調査班「ファクト・チェッカー」によると、内容が全く根拠を欠くものだったり、不正確な記述が3万回近くあった。記者会見や演説集会でも、自分と折り合いの悪い人物を下劣な表現で非難中傷する場面が度重なり、次第に有権者の間でも、大統領としての品格、振る舞いに対する評判を著しく落とす結果となった。

 選挙戦終盤では、リードを許すバイデン候補を「犯罪人」呼ばわりし「刑務所送りだ」などと、過激な表現で攻撃するといった、その品格を疑うケースが重なり、結果的に党派を問わず、全米の良識派の多くの支持を損なう事態を招いた。

 「Pew Research」による世界の指導者を対象とした信頼度比較調査で、トランプ大統領はほとんどの欧州諸国首脳の後塵を拝し、習近平中国共産党総書記以下の評価を受けるというみじめな結果だった。

 各機関による事前の支持率調査で、トランプ政権の「経済政策」と経済実績についてはつねに50%以上の評価を残してきたものの、「好感度」ではほとんどの調査で30%台にとどまったことは、多くの有権者がトランプ氏の個人的品格、資質に見切りをつけたことを意味している。

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