2024年11月22日(金)

Washington Files

2020年11月8日

コロナ・ファクター

 アメリカのコロナ感染者数は今年初め発生以来、11月2日現在、全米で938万人、死者23万1000人に達し、世界最悪記録を更新し続けている。その要因について様々な指摘があるものの、コロナ感染危機に対する当初からのトランプ大統領個人の姿勢、および同政権の感染予防対策の不徹底と混乱ぶりが事態の悪化を招いたことは否定できない。そのことは、大統領選の事前世論調査で、過半数を大きく上回る有権者がトランプ政権の失政ぶりを批判したことにも示されている。

 今回の大統領選の一つの特色として、前回選挙でトランプ氏を支持した白人女性層、65歳以上の高齢者層のうち、60%以上がバイデン候補支持に回ったことが挙げられたが、その理由として、子供を持つ母親、病弱体質の高齢者の多くがコロナ感染リスクを身近に深刻に受け止め、反トランプ票の増加につながったことが指摘されている。

 さらに白人、非白人を問わず、医療保険対象外の低所得者層の間でも、十分な感染予防対策、治療の恩恵を受けられず、それが結果的に、国民健康保険制度を軽視してきた共和党政権への批判を広げることになった。

 トランプ大統領自身が、国立アレルギー・感染症研究所長を務め、ウイルス感染の権威として尊敬を集めるアンソニー・ファウチ博士ら専門家のコロナ感染拡大防止に対する見解をことごとく無視し続けたことについて、アメリカの権威ある医学雑誌数誌が大統領の「一連のサイエンスを無視した言動」を告発する異例の論陣を張るなど、トランプ政権に対する世間の信用を著しく落とした。

 コロナ対策に対する失政が大統領選での直接の敗因ではないとしても、トランプ氏にとっては足をすくわれる結果となった点は否めない。

共和党員の離反

 「接戦州で共和党支持者が1%でもトランプ大統領から造反すれば、バイデン候補の勝利につながる」―アンチ・トランプの共和党組織として知られる「Lincoln Project」ストラテジスト、リード・ギャレン氏は投票日の直前、テレビ・インタビューでこう予言していた。ジョン・ケーシック前オハイオ州知事の選対本部長を務めたベス・ハンセン女史も「トランプ氏は今回、4年前にくらべ1%以上の支持を失うリスクがある。2020年選挙では、かつてなく多くの共和党不満分子がトランプ氏を拒否するだろう」と語っていた。

 実際にコーリン・パウエル元国務長官ら、過去の共和党政権で要職にあった著名な多くの共和党員たちが堰切ったように、トランプ大統領の常軌を逸脱した言動や政策を批判、今回の大統領選で異例の「バイデン候補支持」方針を事前に表明した。

 こうした共和党内における不吉な動きは、現実のものとなったようだ。最後まで両候補が接戦を演じたペンシルバニア州内での有権者動向について、同州出身で事情通のチャーリー・デント元共和党議員は開票後の6日、CNNテレビとのインタビューで次のように証言している:

 「私は、州内の多くの共和党員たちが今回はトランプ大統領の狂気じみた言動に嫌気がし、バイデン候補に投票したことを知っている。私もバイデン候補に投票した一人だ。彼らの大半は民主党の諸政策に同調しているわけではない。バイデン氏に投票した理由は単純だ。彼はドナルド・トランプではなかったからだ」

 今回の選挙で勝敗の決め手となったペンシルバニア、ウイスコンシン、ミシガンなどの州での開票結果はいずれも僅差だっただけに、こうした共和党員の離反がひとつの重要なカギとなったことは否定できない。


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