裏目に出た郵便投票攻撃
今回選挙の最大の特徴の一つは、史上空前規模の郵便および期日前投票だった。これまでの集計分析では投票総数約1億5000万票のうち、実に1億票近くが事前投票だった。そして、そのうち、7割前後がバイデン支持だったとされる。
バイデン陣営はコロナ危機が拡大し始めた今年春以来、①選挙当日に投票所に大勢の有権者が駆けつけることで感染が拡大する恐れがある②テキサス州など共和党地盤州では、「コロナ感染」を口実として、各郡ごとの投票所数を極端に減らし、遠隔地に住む高齢者や低所得層の投票意欲をそぐ政治的な動きがあった③数少ない投票所での感染を警戒し多くの有権者が棄権する事態を回避する必要があった―などの事情から、そのための対応策として、投票日前の郵便での投票の重要性を全米各地で繰り返し熱心に訴えてきた。
ところが、トランプ氏は今年1月以来、選挙戦を通じ「選挙不正の温床」だとして、この郵便投票を一貫して激しく批判し続けてきた。去る3日投票日翌日から集計が始まってからも、ホワイトハウスの自室からツイートを連日発信、そのたびに「郵便投票は本当の選挙ではない」「郵便で投函された票は集計から除外すべきだ」などと、有権者の感情を逆なでする主張を繰り返した。
ニューヨーク・タイムズ紙などの報道によると、こうした大統領による当初からの郵便投票の正当性を無視する言動が、かえって有権者の投票意欲を駆り立てる結果となった。実際に、これまでの各州選管当局のデータ集計結果によると、投票日投票総数は1億143万票、このうち投票所での投票総数が3500票、残りの8000万票近くが郵便投票だった。
そして開票が始まった当初は、当日投票分の集計でトランプ氏が優位に立ったかに見えたが、その後、期日前投票および郵便投票の集計がスタートした時点で、集計票の7割近くがバイデン支持票であることが明確となり、形勢が一気に逆転、結局、最後まで票を争ったペンシルバニア、アリゾナ、ジョージア、ネバダ各州でバイデン候補にリードを許し、そのまま敗北に追い込まれる事態を招いた。
就任当初から、アメリカン・デモクラシーの制度そのものや、同政権の政治姿勢を厳しく監視してきた多くのマスメディアを一網打尽に非難する極端な言動を繰り返すことで、熱狂的支持者を引き寄せてきた。しかし、その常軌を逸脱した「トランピズム」が、最後にこれ以上ない手厳しい裁きを受ける結果となったといえよう。
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