DXの正体

2021年1月21日

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五十嵐弘司 (いがらし・こうじ)

東京工業大学大学院総合理工学研究科修了(工学修士)。1980年、味の素(株)に入社。バイオ精製工程のプロセス開発に従事。1998年からアメリカ味の素(株)アイオワ工場長、技術開発センター長を経て上席副社長。2009年、味の素(株)執行役員経営企画部長。その後、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員に就任。中期経営計画の策定、M&A実務実行など、味の素(株)で経営の中枢を担う。また、技術統括・情報統括として、イノベーションの実現、グローバル展開、ICT活用やデジタル化を推進した。現在、公益社団法人企業情報化協会代表理事副会長、一般社団法人日本能率協会開発・技術部門評議員会副議長などとして活動中。企業経営にかかわる多数の講演実績がある

スマートランドリー

 東京メトロ東西線浦安駅から徒歩数分、住宅街の中に、今や世界の自動車メーカーで最も時価総額の高い米・テスラ社の「モデルX」と「テスラ3」が駐車してあることでひと際目立つ一角がある。洗剤を使用しないコインランドリー「wash+(ウォッシュプラス)」社長の高梨健太郎さんの自家用車と、社用車だ。

高梨さんとモデルX

 高梨さんが開発したwash+Technologyは、アルカリイオン水を使用することで、洗剤を使用せずに洗浄力の高い洗濯を可能にした。また、アトピー性皮膚炎予防など、肌へのやさしさを求める消費者ニーズにも適っている。さらに「スマートランドリー」をコンセプトにIoTを活用し、スマートフォンでの予約や操作、キャッシュレス、遠隔対応ができる。

 高梨さんが「スマートランドリー」のコンセプトを磨いていく中で、役立ったのが冒頭のテスラだったという。巨大タッチパネルで全ての操作が行われ、スマートフォンなどと同じく、ソフトウェアが自動でアップデートされて機能が向上していくなどといったユーザーエクスペリエンス(体験)が、参考になったという。筆者も、モデルXに乗車させていただいたが、「ファルコンウィングドア」と呼ばれるカモメの羽のように跳ね上がる扉など、自動車に乗ってワクワクするという体験を久方ぶりにした。

 実は高梨さん、前職は不動産業者だった。「今でも、本当に詳しいのは不動産です」と笑う。そんな高梨さんが、なぜ「スマートランドリー」に行きついたのか……。キーワードは「観察眼」だ。

3.11で不動産業の将来に不安を持つ

 高校球児だった高梨さんは卒業後、様々な会社に勤めた後、家業である不動産会社に就職した。不動産業に加えて、自社で大工さんを抱え、新築、リフォームなども手掛けていた。そんなとき、東日本大震災が発生、浦安地域は、地盤の液状化が発生した。

 当時青年会議所で役員をしていた高梨さんは、人を集め、泥かきを行った。そしてボランティアを募った。「2週間後には1日で1800人もの方に来ていただきました。しかしあまりにも多く来ていただいたので、スコップがない、食事を持ってきていないなど、混乱も生じましたが、良い経験になりました」と振り返る。

 そうして本業に復帰してみると、「もの凄い数の転居がありました。3カ月で3000人は人口が減ったと思います。また地面が動いているので、確定測量もできない。舞浜などは、坪170万円で売買されていましたが、60万まで下がりました」。

 「一番愕然としたのは、液状化の防止を誰もやらなかったことです。ハウスメーカーが認めないのです。家が斜めになったら、ジャッキアップして上げるという対応しかしませんでした。自分にできることはないかと考えた結果、まずは勉強しないといけないと思い、大学の先生を講師に招いて勉強会を行いました。しかし、知識を深めていくと、既存の建物がある中で液状化対策をすることは、並大抵のことではないことが分かってきました。浦安市が国と一体となって行う『地中壁工法』と呼ばれる方法だと、区画全員が同意しないといけないのです。当然、住民の負担も必要で、意見をまとめることは容易ではありません」

 こうした状況を目の当たりにして高梨さんは「それまで不動産業というのは、地球の切り売りであり、無限だと思っていました。しかし、液状化のような事態が発生し土地に瑕疵ができてしまうと、突然成り立たなくなる。この仕事は子どもに引き継げないと思いました」。

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