コインランドリーのユーザーエクスペリエンスを変える
高梨さんは、コインランドリーのユーザーエクスペリエンスを変える必要があると考えた。目の前でコインを入れ、ボタンを押す。何十年と変わらない仕組み。「みんなが持っているスマホのアプリで操作できたら便利になる」、高梨さんは山本製作所の社長を説得した。
肝心のアプリは誰に頼めばいいか。高梨さんはすぐにピンときた。地元の祭りで知り合いになった加藤雅史さん。確か、大手電機メーカーでソフトウェア開発をしていると言っていたことを思い出し、早速コンタクトをとった。
そして、2017年のコインランドリーエキスポ。「スマートランドリー」のコンセプトを発表すると、大騒ぎになった。高梨さんという外部の目が入ったことの効用だ。
高梨さんは、要所要所で特許の出願も行っている。失礼ながら、中小企業でそんなに簡単に特許出願ができるのか? と思ってしまうが、米国の某大手企業の日本法人で法務部長をしているという友人にアドバイスをもらっているという。
現在、スマートランドリーは125店舗にまで増えた。5年以内には200店舗を超すという。そして、アプリのダウンロードは5万件を超え、ここで集まるデータが、全て貴重な財産として蓄積される。現在は、気象条件と使用回数についてなどの分析を行っているという。こうしたデータからダイナミックプライシングの導入、そして他業界との連携も視野に入れている。
アプリを使った「ステータス機能」も、高梨さんの発想らしい。使用回数によってステータスが上がるようにして、ステータスが上がれば、「扉をスモークガラスにできる」「予約ができる」など、使用できる機能をグレードアップしている。この発想も、エアラインのステータスから発想を得たという。
また、コインランドリー事業では、洗濯機の稼働回数が利益に直結する。そのためできるだけ早く洗濯終了後の洗濯物を回収してもらうことが求められるが、それを実現するのは難しかった。そこで、洗濯物の放置時間が少ないほどポイントがつくようにした。「罰則ではなく、プラスのインセンティブを与えるほうが有効だと考えました」。
高梨さんのアイデアはとどまることを知らない。海外進出も視野に入れているという。
DXとは、デジタル技術とイノベーションを組み合わせて新しい事業のかたちを作ることである。ウォッシュプラスにおけるDXは、新たな事業を創ること(不動産業からの脱却)が起点となり、そこにイノベーション(洗剤なしの洗濯)を組み込み、最後にデジタル化で全体をまとめた(スマートランドリー)取り組みだ。
DXは、デジタル、イノベーション、事業のどこからスタートしてもできることがわかる。
また、ウォッシュプラスの事例は、それらを繋ぐ人のつながり、ネットワークやチーム力が成功のカギであることを教えてくれる。
高梨さんが、そのネットワーク力、グローバル志向によりウォッシュプラスでさらに大きなDXの成果を生み出し、「コインランドリー業界のイーロンマスク」と言われる日も近いかもしれない。これからの大躍進を大いに期待したい。
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