オトナの教養 週末の一冊

2019年11月29日

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(takasuu/gettyimages)

 東京工業大学大学院を卒業後、1980年、味の素に入社。技術者として、バイオ精製工程のプロセス開発、国内から撤退の危機にあった工場の再生、アメリカ工場の立ち上げなど、一貫して現場を持ち場にしてきた五十嵐弘司さん。

 生産統括センター長を経て50歳を過ぎた08年、リーマンショックが起き、会社の時価総額はピーク時の4分の1にまで下落。危機を挽回するべく、経営企画部長に抜擢され「はぐれものチーム」を結成して、経営ビジョンの策定と実現に携わった。

 また地球を70周する距離を飛び回り、国内外の様々な企業との提携などの陣頭指揮も採るなどして、時価総額を元の水準以上に戻すことに貢献。その後、専務取締役を経て2017年に退任。

『技術者よ、経営トップを目指せ!』(日経BP社)

 現在は、企業情報化協会で代表理事や日本能率協会の開発・技術評議会の副議長として活動するかたわら、大企業幹部を相手に、あるいは品川区中小企業アドバイザーとして中小企業経営者に、はたまた地方の高等専門学校(高専)に出かけて、若者たちと語らうなど多忙な日々を送る。

 そんな五十嵐さんが「イノベーションを実現するにはどうしたらいいのか!?」という思いのもと、『技術者よ、経営トップを目指せ!』(日経BP社)を上梓した。五十嵐さんに思いのたけを聞いた。

 本書は、こんなエピソードからはじまる。五十嵐さんがアメリカに赴任した1998年、現地でのビッグマックは1ドル90セント(190円)だった。日本からすると割安で、ビッグマックに限らず、当時の物価がすべてそのように見えた。翻って、現在。アメリカのビッグマックが5ドル(500円)なのに対して、日本は390円で、逆転しているのである。

 日本にずっといると気が付かないが、世界の多くでは物価が上がっているのだ。「華為(ファーウェイ)の初任給が40万円」などと話題になったが、日本は20万円程度で、ここ20年以上張り付いたまま。アジア各国から観光客が訪れていてくれているが、相対的に、「日本が安くなっている」ことも影響しているだろう。

五十嵐/弘司 東京工業大学大学院総合理工学研究科修了(工学修士)。1980年、味の素(株)に入社。バイオ精製工程のプロセス開発に従事。1998年からアメリカ味の素(株)アイオワ工場長、技術開発センター長を経て上席副社長。2009年、味の素(株)執行役員経営企画部長。その後、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員に就任。中期経営計画の策定、M&A実務実行など、味の素(株)で経営の中枢を担う。また、技術統括・情報統括として、イノベーションの実現、グローバル展開、ICT活用やデジタル化を推進した。現在、公益社団法人企業情報化協会代表理事副会長、一般社団法人日本能率協会開発・技術部門評議員会副議長などとして活動中。企業経営にかかわる多数の講演実績がある

 「これの何が問題なのかといえば、日本では20年以上も成長していない、成長を推し進めるようなイノベーションが起きていないということです」(五十嵐さん、以下「」内、同)

 確かに身近なところでも、振り返ってみると、日本初のイノベーティブな商品というものは久しく出ていない。トヨタのハイブリッドカー(HV)「プリウス」が出たのが90年代後半、シャープの薄型テレビ「アクオス」が出たのが、2000年。その後は、iPhoneなどアップルの出した製品や、アマゾン、フェイスブックのような新しい製品・サービスが日本から出てくることはない。

 本書では、五十嵐さんのサラリーマン生活が小説仕立てで語られている。最初に知ることとなった「研究」と「技術」違い。その二つに加えて「生産」が、一直線でつながることが価値創造の活動であること。そして、アメリカ駐在、海外移転候補の工場立て直し、リーマンショック後の会社の立て直し。パートごとに「チャート」(トータルで30)が入っており、要点がまとめられている。

 五十嵐さんと同じような製造現場で働く人には事務で役立つ一方で、事務系の人にとっても、現場で何がおきているのか、つぶさに知ることができる。

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