2024年12月22日(日)

VALUE MAKER

2021年8月21日

食品以外にも広がる用途

 CASを組み込んだ冷凍機を発売すると既存の冷凍機メーカーから徹底的にライバル視される。ネガティブキャンペーンの連続だったと大和田社長は振り返る。それでも国内で約600台、海外には200台以上を売った。

 「CASエンジンはどんな冷凍機にも付けることができるので、本当は競合しない製品なんです」と、今後は冷凍機メーカーとの協力などを模索する。CASの原理は素材の中の水の分子を微動させながら凍らせること。水は凍ると膨張するため、それが細胞膜を破壊してしまう。それをCASのエネルギーを発生させて凍らせるとマイナス14℃まで凍らない。過冷却状態を長く保つことで、品質の変化を最小限に抑えるのだ。

 細胞を壊さないというCASの特長は食品以外にも多くの分野から注目されている。血液やIPS細胞などを長期保管するのに応用できるのではないかとみる医学研究者からも声がかかっている。

 アビー本社に並ぶ冷凍保管装置「ハーモニック」には、数々の食材が保管されている。現状では8年たっても変質せず、元に戻せることが分かっているという。50年たっても100年たっても品質劣化しない保管が可能になれば、さまざまなものを長期備蓄できるようになる。

 「作業所の子どもたちが月に15万円の収入を得られるようにしたい」と山﨑さんも大和田社長も口をそろえる。障がいを持つ子どもの母親たちは、自分が面倒をみられなくなった時の子どもの行く末を案じている。手に職を持って一定の収入を得られるようになれば、自立して生きていくこともできるようになる。CASはそんな母親たちの夢も背負っている。

写真=湯澤 毅 Takeshi Yuzawa

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Wedge 2021年2月号より
資本主義の転機
資本主義の転機

新型コロナウイルス感染症が世界に甚大な影響を与えている。

そして今、人々が幸せになるために生まれた資本主義は大きな試練に直面しているが、世界は有効な解決策を示せずにいる。

21世紀を生きる人類は、新型コロナだけでなく今後もさまざまな「リスク」に直面することになるだろう。危機に直面した時でも、従業員やその家族、地域社会を守れる仕組みが必要だ。

今こそ日本発で、その「処方箋」を世界に向けて示すときだ。


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