食品以外にも広がる用途
CASを組み込んだ冷凍機を発売すると既存の冷凍機メーカーから徹底的にライバル視される。ネガティブキャンペーンの連続だったと大和田社長は振り返る。それでも国内で約600台、海外には200台以上を売った。
「CASエンジンはどんな冷凍機にも付けることができるので、本当は競合しない製品なんです」と、今後は冷凍機メーカーとの協力などを模索する。CASの原理は素材の中の水の分子を微動させながら凍らせること。水は凍ると膨張するため、それが細胞膜を破壊してしまう。それをCASのエネルギーを発生させて凍らせるとマイナス14℃まで凍らない。過冷却状態を長く保つことで、品質の変化を最小限に抑えるのだ。
細胞を壊さないというCASの特長は食品以外にも多くの分野から注目されている。血液やIPS細胞などを長期保管するのに応用できるのではないかとみる医学研究者からも声がかかっている。
アビー本社に並ぶ冷凍保管装置「ハーモニック」には、数々の食材が保管されている。現状では8年たっても変質せず、元に戻せることが分かっているという。50年たっても100年たっても品質劣化しない保管が可能になれば、さまざまなものを長期備蓄できるようになる。
「作業所の子どもたちが月に15万円の収入を得られるようにしたい」と山﨑さんも大和田社長も口をそろえる。障がいを持つ子どもの母親たちは、自分が面倒をみられなくなった時の子どもの行く末を案じている。手に職を持って一定の収入を得られるようになれば、自立して生きていくこともできるようになる。CASはそんな母親たちの夢も背負っている。
写真=湯澤 毅 Takeshi Yuzawa