2024年12月22日(日)

VALUE MAKER

2021年8月21日

CASで保管された「生しらす」

 地元の漁協の協力で手に入れた生のしらすをCASにかけて冷凍し、これはそのまま飲食店などに卸すことにした。この「生しらす」が大ヒット商品になった。しらすは生のまま保存することが難しい。生しらすは産地でしか味わえない希少な味覚だったのだ。それをCASを使うことで、冷凍して保管・輸送し、解凍した「生しらす」を提供できるようにしたわけだ。大阪の料理店の店主たちが目玉の逸品として客に出すようになっていった。今では有田川町のふるさと納税の返礼品に「CAS凍結生しらすセット」が加わっている。

 温州みかんやイチゴ、イチジク、ブルーベリーなど地元産の農産物も冷凍、解凍したうえで、様々な商品に加工している。解凍したみかんやイチゴをカットして、フリーズドライ加工した「フリーズドライフルーツ」も人気商品。作業所で自前の農園も持ち、そこでも原材料を育てることで、ここにも障がい者たちができる「作業」が生まれた。最近では、グァバを育てて「グァバ茶」として製品化もしている。

写真右=カットしてCASに保管されるキウイ
写真左=フリーズドライのイチジク(上)と凍結したイチジク(下)

 「作業所の仕事というと部品を手作業で作るような1つ何銭といった内職仕事がほとんどで、障がい者一人の月収は3000円~5000円というのが相場でした。それがCASを使った食品加工に乗り出して10万円前後になったんです」と山﨑さんは顔をほころばせる。CASを寄贈した大和田社長も定期的に作業所を訪れ、その「成果」を目の当たりにした。2006年に作業所を開所した時15人だった障がい者は、今32人にまで増えた。

 「うちの会社がもっと大企業で儲かっていれば、全国の作業所にどんどん寄付したいくらいなのですが、そんな力はまだありません」と大和田社長。一方で、自らが開発したCASが社会問題の解決にまだまだ役立つと考えてもいる。

 CASを使えば品質を落とさずに長期保管できる。「豊作貧乏」と言われるように、旬の農水産物が大量に採れると、市場価格が暴落し、出荷されずに廃棄処分されるケースが少なくない。それがCASで長期備蓄できるようになれば、価格を安定させることも可能だと、大和田社長はみる。天候不順による食糧不足や、フード・ロス問題の解決にも役立つのではないか、というわけだ。

 76歳になる大和田社長は、24歳の時に厨房機器を製造していた父の会社に入る。そこで営業と共に製品開発を任された。「その時、食品素材の勉強を始めたのですが、社内にそんな知識を持った人はいない。結局、取引先だった不二製油の開発部長に指導していただくことになった」。テーマは生クリームの凍結で、解凍した時に品質を保てる機械の開発になった。以後、20年近くにわたって同部長に教えを乞うことになる。それが細胞を破壊せずに凍らせるCASの開発に結びついた。


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