2022年11月27日(日)

VALUE MAKER

2021年8月21日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

ジャーナリスト

千葉商科大学教授(4月から)。1987年日本経済新聞社に入社。フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務め、11年に独立。著書に『2022年、働き方はこうなる』(PHPビジネス新書)など。

【大和田哲男(おおわだ・のりお)】  
1944年東京都荒川区生まれ。1966年、父が経営する厨房機器メーカー・大和田製作所に入社。89年独立、アビーインダストリー(現アビー)を設立。

 和歌山県有田川町で障がい者に働く場を提供している「コスモス作業所」。ここに障がい者が受け取る賃金を劇的に向上させた秘密兵器がある。CAS(セル・アライブ・システム)エンジン(以下、CAS)は細胞を壊す急速凍結の弱点を克服し、生鮮食品の細胞を壊さずに凍結させることができ、解凍した時に限りなく「生」に近い鮮度を味わえる。

 「有田みかん」で有名な有田川町周辺は、山の幸・海の幸が豊富で、作業所ではその食品加工を取り入れることを考えていた。ただし問題は、原材料にする農水産物の収穫期が限られていること。1年を通じて作業量を確保するには、安定的に原材料を手に入れる必要がある。

和歌山から千葉へ直談判

 コスモス作業所を運営する社会福祉法人きびコスモス会を立ち上げ理事長を務める山﨑貞子さんは、ある日、テレビでCASが紹介されていたのを見て、「これだ」とひらめいたのだという。地元の農水産業者の協力で収穫期に手に入れた原材料を冷凍保管しておき、作業ペースに合わせて解凍して加工すれば、作業を平準化できる。すぐにCASを開発・販売しているアビーの大和田哲男社長を訪ねて、和歌山からアビー本社がある千葉県流山市まで出かけていった。

山﨑理事長(手前2人目)と、大和田社長(写真上)

 「1台売ってほしい」という山﨑さんの話を、当初、大和田社長は本気だとは考えなかった。CASの価格が500万円~1億円と高く社会福祉法人では手が出るはずがない、というのが理由だった。それでも山﨑さんは諦められない。山﨑さんは自らの思いを大和田社長に伝えた。

 「そこまでして私の開発した機械が欲しいという話を聞いて、正直、感激しました」と大和田社長は振り返る。有田川町を訪ねることにした大和田社長はその時すでに心に決めていたという。「CASを1台プレゼントしよう。おカネをもらうわけにはいかない」。

 コスモス作業所のCASは山﨑さんの予想どおり成果を上げる。

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