米国とイスラエルとの関係は、バイデン政権下でぎくしゃくしているようだ。バイデンの就任から1か月近くにわたって、イスラエルのネタニヤフ首相とバイデンとの間で接触がなかった。初めて電話会談が持たれたのは、ようやく2月17日になってからであった。この間、バイデンは米国の他の全ての同盟国の指導者および中露の指導者と電話で会談している。バイデンのネタニヤフに対する不快感の表れと見てよいだろう。
ワシントン・ポスト紙の2月18日付け社説‘Biden delivers a snub to Israel’s Netanyahu — and for good reason’は、その理由をいくつか挙げている。
・昨年、トランプが再選運動を始めた時に、ネタニヤフはトランプの中東和平計画を支持するためにワシントンに行き、トランプを「イスラエルがこれまでホワイトハウスに持った最大の友人」と呼んだ。
・ネタニヤフは、米国の政権移行期間中に西岸での住宅建設を承認し、イランの核計画を制限する国際合意に再参加するバイデンを拒否する演説を行った。
・2月15日、イスラエルのテレビのインタビューで、ネタニヤフはバイデンとは「イランとパレスチナ問題」で意見が違うと述べ、自らをバイデンに「立ち向かう」可能性がある人物として描いてみせた。
同社説は、パレスチナ問題については、ブリンケン国務長官がイスラエルとパレスチナがより良い指導者をもつ時まで、パレスチナ国家の可能性を残すというもっと控えめな目標を示したことを、好意的に紹介している。また、イラン核合意関連では「バイデンはネタニヤフがイラン核合意を活性化し拡大する希望を潰すことを許してはならない」と指摘する。
上記社説も予見している通り、バイデン政権下で米・イスラエル関係が困難なものとなるのは間違いないと思われる。パレスチナ問題とイラン核開発問題が米・イスラエル間で意見が割れる問題となってきている。
パレスチナ問題については、バイデン政権はパレスチナ国家の可能性を残すとの控えめな目標を立てているが、これは要するにパレスチナ問題を2国家の樹立により解決しようとの考え方であり、1国家解決よりもはるかに現実的な政策になるだろう。今のネタニヤフ路線は1国家解決を実質的に目指しているが、この大イスラエルの人口は、ほどなくパレスチナ人が多数派を占めることになる。1人1票という民主主義の原則に従えば、大イスラエルは、結局、パレスチナ人が支配する国になる。それを避けるためには、アラブ人を無権利者にするアパルトハイト体制を築かざるを得ないが、そういうことは今の時代に許容されることではない。
バイデンは、イラン核合意については、オバマ政権時代にできた良い合意であり、それに戻りたいと考えている。イラン側は、核合意に反して米国が勝手に課した制裁による損害を補償するのが先決である、という主張をしている。これはイラン内政も絡む難しい問題であり、まだどうなるかわからない。しかし、米国としてはイスラエルの意見を聞いている余裕はないということになろう。
この米国とイスラエルとの意見の違いは、イスラエルの内政に影響を与える。3月23日の選挙でネタニヤフが政権を維持できるか否かは見通しが困難になっていると考えていいのではないかと思われる。
トランプとネタニヤフがやったことで残るものは、エルサレムへの米大使館移転とイスラエルのUAEなどとの国交正常化であろう。中東和平問題は、トランプとネタニヤフがしたことにさしたる影響は受けずに、引き続き難しい問題として残るということになろう。
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