2024年4月25日(木)

WEDGE REPORT

2021年4月9日

日欧EPA苦戦の背景

 しかしエコノミスト誌(09年9月3日号)によれば、二国・地域間協定が複数存在し(特にアジアに多い)、異なる基準や規則が錯綜している場合(これを「スパゲッティボウル現象」という)、貿易を促進する効果はほとんどないことが証明されているという。

 そのため最近ではアジアでも、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や地域的な包括的経済連携(RCEP)といった多国間地域協定が締結されている。米国・EU間のTTIPの交渉の際には、大衆の猛烈な反対もあった。一方、日EU経済連携協定は、安倍晋三前首相とEUのユンケル委員長の間で交渉が進められ、19年に発効に至った。

 ところがふたを開けてみると、多大な期待に反する結果だった(編集部注・発効翌年の欧州委員会発表では、19年2~11月の10カ月間における貿易額について、EUの日本向け輸出額の増加は前年同期比で6.6%、EUの日本からの輸入額増加は6.3%であった〈20年3月、ジェトロ短信〉)。11年に日本が韓国と自由貿易協定を締結した際に、当初およそ35%も貿易量が増加したのとは大違いである。

 実際、この協定の交渉時にはすでに、両者が重視する部分の違いが明らかになっていた(日本側は関税を、EU側は非関税障壁を重視)。これは、両者の歴史に基づく古くからの関心事の違いを反映している。島国だった日本は、外国に強制的に開国させられるまで、数世紀にわたり鎖国していたため、のちには「独自性」(日本人論によく見られる)の保護を求めるようになった。

 それに対してEUは、国境を開放し、国の相違を調和させることを存在理由としている。こうした背景の相違から、交渉は複雑化した。関税や割当制(日本から見たEUの「国境障壁」)については相互授受の交渉の場で容易に数値化できるが、さまざまな非関税障壁(製品規格など)が貿易に及ぼす影響(EUから見た日本の「国内障壁」)については明確に数値化できないからだ。非関税障壁に関してはさらに、公共調達や競争に関する法律も重要な問題になる。

昨年10月、日英経済連携協定に署名した、茂木敏充外相(右)と英国のトラス国際貿易相 (KYODO NEWS/GETTYIMAGES)

重要なのは「汎地球的」ルール

 もちろん、デヴィッド・リカードの言う貿易における「比較優位」の原則(編集部注・貿易においては自国の得意な生産に特化したほうが効果的)は、相違から生まれる利益に基づく。だが最近になって、輸入(類似製品の輸入も含む)を通じて競争やイノベーションを高めるというヨーゼフ・シュンペーターの主張(「共争」)がヨーロッパで優勢になりつつあり、徐々に東アジアにも広がっている。

 この「共争」や「比較優位」は、FTAによる二国間や多国間の国益のみに左右されない公平な条件下の世界市場でこそ、その効果を発揮する。新型コロナウイルスのパンデミックで明らかになったように、グローバル化がもたらす恩恵により、あらゆる経済圏の相互依存は劇的に高まっている。もはや、多大な損失を被ることなくこの流れを逆行させることなどできない。世界に張り巡らされたインターネットに象徴されるこの相互依存関係をどう育むかは、グローバルな解決策を必要とするグローバルな問題である。

 そのためには、主権国家だけでなく、GAFAやBATX(編集部注・中国の四大IT企業のバイドゥ、アリババ、テンセント、シャオミ)などの大企業や市民社会など、あらゆる関係者がさまざまな意見を比較検討する議論に積極的に参加し、二国間・多国間・地域間という枠組みを飛び越えた「汎地球的(オムニラテラル)」(omnilateral)ルールが必要だ。万人による万人のための枠組みが必要とされている。


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