2024年4月24日(水)

WEDGE REPORT

2021年4月9日

 column 

日本とEUは新時代の真なる戦略的パートナーになれるか?
1970年代、難題を抱えていた日欧の貿易関係。多くの障壁を超え、今後は米中を巻き込む主導的な役割が求められている。 

渡邊頼純(関西国際大学国際コミュニケーション学部長・教授)

 1978年、ブリュッセルを訪問した福田赳夫首相(当時)は対日貿易赤字の拡大に悩む欧州共同体(EC=欧州連合〈EU〉の前身)首脳からの厳しい批判に直面した。続いてEC各国を歴訪した経済団体連合会の訪欧団も先々で同様に対EC貿易黒字の削減と日本市場の開放を強く求められた。

 翌年にはECの行政府に相当する欧州委員会が対日関係に関する初めての報告書において、「日本人は働きすぎの労働中毒患者(ワーカホリック)でウサギ小屋(ラビット・ハッチ)に住んでいる」と揶揄した。

 86年9月、関税貿易一般協定(GATT)のウルグアイ・ラウンドを立ち上げる閣僚会議で、ECは交渉項目の一つとして「利益の均衡」を取り上げるべきと訴えた。その核心は「日本は一方的にGATT体制から利益を得て、自らの市場は閉ざしたまま欧米の市場を席巻している、そのような不均衡は是正されるべき」という主張であった。幸い日本代表団の効果的な反対キャンペーンが奏功し、多国間交渉の中でECがシステマティックな対日輸入制限をルール化することは回避できた。

 70年代後半から日欧(以下、日EU)間にはさまざまな貿易摩擦が存在した。日本が一方的に自動車や家電製品、エレクトロニクス関連商品を欧州市場に輸出する一方、EU側は自動車はもちろん、チーズやバター、ワイン、チョコレートに至るまで日本市場への売り込みに苦労していた。自動車は関税がゼロであったため、EU側は問題は関税ではなく関税以外の措置、いわゆる非関税障壁にあると主張、軽自動車に対する軽減税率や車検制度などをやり玉に挙げた。

 日本政府が薬品についてEUの治験データを信用せず、あくまでも日本基準のテスト結果を求めるなどしたため、日本は非関税障壁のデパートのように言われた。今でも日本との通商問題が生じると「非関税障壁のせいだ」と言えば皆が納得する傾向があるのには閉口する。日本でのビジネスがうまく行かない時に欧州のビジネスマンがこのイクスキューズを使えばそれで良しとされた時代が長く続いたのである。


希望のEPAとSPA

 そのような日EU間で、2019年2月に自由貿易協定(FTA)である日EU経済連携協定(EPA)が発効した。世界の国内総生産(GDP)の約3割、貿易で約4割をカバーするメガFTAが誕生した。規模だけでなく、米国のトランプ大統領(当時)による保護主義が世界を覆いつつあった時に、あたかもそれに挑戦するかのようにこのメガFTAが合意された。トランプ氏の政策に対するいわばアンチテーゼとなった。

 またEPA発効だけでなく、政治協力を志向する戦略的連携協定(SPA)が締結されたことも意義深い。日EU双方は、民主主義、法の支配、人権など普遍的価値を共有することを確認しており、EPAとあいまって世界と地域の平和、安定および繁栄にむけて互いに協力する枠組みをもったことになる。この枠組みを通じて日EUの協力が深化することで、米国と中国の間で繰り広げられる「覇権競争」に第三の道を提示することが期待されている。

 日EUが共によって立つのは多国間主義(マルチラテラリズム)である。米国も中国も引き込んで行くことで日本もEUも「米国か、中国か」というダイコトミー(二分法的論理)から解放される。そこに日EUパートナーシップの戦略的価値がある。パーペ氏の主張するオムニラテラリズム(汎地球主義)はその延長線上に存在している。
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■「一帯一路」大解剖 知れば知るほど日本はチャンス
PART 1     いずれ色褪せる一帯一路 中国共産党〝宣伝戦略〟の本質
PART 2     中国特有の「課題」を抱える 対外援助の実態            
PART 3     不採算確実な中国ラオス鉄道 それでも敷設を進める事情    
PART 4  「援〝習〟ルート」貫くも対中避けるミャンマーのしたたかさ  
PART 5     経済か安全保障か 狭間で揺れるスリランカの活路       
PART 6    「中欧班列」による繁栄の陰で中国進出への恐れが増すカザフ
COLUMN   コロナ特需 とともに終わる? 中欧班列が夢から覚める日
PART 7      一帯一路の旗艦〝中パ経済回廊〟
PART 8     重み増すアフリカの対中債務
PART 9     変わるEUの中国観 
PART10    中国への対抗心にとらわれず「日本型援助」の強みを見出せ

  
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◆Wedge2021年4月号より


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