2024年11月21日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年10月6日

 信頼がなくなったと認識した中国も「ルール」と「歴史事実」で反撃に出た。「日本は1895年、日清戦争末期に釣魚島を不法に奪い、第2次大戦後、カイロ宣言とポツダム宣言に従い中国に返還した。日本の(国有化という)立場は戦後国際秩序に対する公然たる否定だ」(9月10日外交部声明)。

 中国人研究者はこれまで、過去の歴史認識を強調して尖閣問題を提起することはあったが、政府の公式見解として打ち出されたのは初めてとみられる。共産党・政府は、もはや民主党政権との間に信頼はなくなったと判断したのだ。双方とも今や、両国関係を改善・安定へとコントロールできる余地はなくなったと言えよう。

「胡主席のメンツが潰された」

 両国政府が「信頼」を失う中、日本外交筋はこう漏らした。

 「戦争にはならないと思うが、中国側の日本への『誤解』が日中衝突の原因になっている」。さらに同筋は続けた。

 「国有化は石原知事を排除し、尖閣諸島の安定を保つ措置だが、中国側は『野田と石原が結託した陰謀だ。茶番だ』と言って全く聞く耳を持たない」

 9月下旬には河相周夫外務省事務次官が訪中したり、ニューヨークでの国連総会に合わせて玄葉光一郎外相と楊潔チ外相が会談したりするなど、日中の外交当局間の意思疎通は続くが、信頼関係は回復していない。

 唐家璇は、ウラジオストクで胡錦濤国家主席と野田佳彦首相が9月9日に立ち話した翌日に野田政権が国有化を決定したことで「最高指導者のメンツが潰された」と日中友好団体会長らに不満をぶつけた。しかしここにもボタンの掛け違いがある。

中南海の意向や民意を読み違えた外交部

 そもそも日本政府の10日の国有化決定は、中国国内でも報道されており、中国外交部の対日担当者ならその情報は把握していたはずだ。さらに野田が国有化の方針を変更するとの情報は事前になかった。

 胡錦濤は野田から要請があったとしても、それを承知でなぜ、「立ち話」に応じたのか――。中国側は、あれだけしつこく野田が要請してくるから、「国有化の方針に変更があった」と思い込み、立ち話に応じたらしい。ここにも外交当局間の相手への「誤解」が見える。そしてそれが結局、胡のメンツに関わる重大問題に発展するのだ。


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