田部康喜のTV読本

2021年4月15日

»著者プロフィール
著者
閉じる

田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

(JanPietruszka/gettyimages)

 「イチケイのカラス」(フジテレビ月9)は、刑事裁判官である、入間みちお(竹野内豊)と坂間千鶴(黒木華)が、反発しながらも、犯罪のうらに隠された人間の真実を解き明かすドラマである。第1話・拡大版(4月5日)は、政治家秘書の息子である、大学4年生が、父が仕えてきた代議士に暴行を加えた、傷害事件をテーマにしている。

 法服をまとった、竹野内豊と黒木華は俳優の幅を大きく広げる予感に満ちている。ドラマの展開も、伏線に次ぐ伏線の連続で観る者を飽きさせない。今シーズンの傑作ドラマとなりそうである。

 ドラマの舞台は、東京地方裁判所第3支部第1刑事部(イチケイ)である。特別判事補として着任した、坂間千鶴(黒木華)の任務は、イチケイが抱える事件の処理を迅速化することにあった。入間は、中学を卒業後に苦労して司法試験に合格した、元弁護士。坂間は東京大学法学部卒のエリートである。

 裁判所の処理済件数が、処理待ちの件数より多い場合に「黒字」と呼ばれる。逆に、処理済件数が処理待ち件数よりも少ない場合は「赤字」である。イチケイは恒常的な「赤字」状態である。裁判所の内部がどうなっているのか、一般にはわからない。東京高等裁判所の裁判官を務めた、瀬木比呂志氏とジャーナリストの清水潔氏による対談本『裁判所の正体―法服を着た役人たち』(新潮社)などの著作によって、知られるようになってきた。

 このドラマの魅力のひとつとして、裁判所が取り扱う刑事事件に絡む刑事訴訟法や、裁判所と検察官の関係、裁判所の内部がのぞけるような感覚になるように、ていねいに制作されているとことにありそうだ。

 第1話は、衆議院議員・江波和義(勝村正信)が、秘書・長岡洋一郎(松澤一之)の息子である、誠(萩原利久)に殴られた「傷害事件」。秘書の洋一郎は、踏切から電車に飛び込んで自殺を図ったとされていた。週刊誌は洋一郎が裏金づくりをして、着服していた疑惑を書き立てた。

 被告の誠は、「父は自殺するはずはない。亡くなった日も就職祝いをしてくれるといって、店も予約していた」という。

 裁判長席にすわった、入間みちお(竹野内)は立ち上がる。「この事件は、洋一郎氏が自殺なのか、事故なのかを明らかにする必要があります」

 「職権を行使します。現場の検証をします」と宣言する。

 刑事訴訟法第128条によると、裁判所が現場検証をすることは可能だ。刑事事件については極めて珍しい。

 第1回目の現場検証で、入間は踏切に色紙で作った花を手向けている小学生の少女に気づく。この検証では、自殺か事故なのかの結論はでなかった。

 第2回は、洋一郎が亡くなった、同じ25日の同時刻に行われた。発見があった。

 現場近くには高層の建物の建設が進んでいた。裁判所の前で「日照権」にかかわる民事訴訟の原告団が配っていた、ビラを入間は取り出す。日照権が大きく書かれていて、ちょっと気づかないが、小さな文字で「騒音問題」も訴訟の原因であることが書かれていた。

 入間は、洋一郎が亡くなった時刻は、工事現場の建設機械の作業が大きな音を立てているうえに、道路はトラックをはじめ通行量が多い。さらに、道路とクロスする高架の道路も、25日は通常の日よりも2倍の通行量であるという。こうした音は、110㏈に達して、電車の音は85㏈である。周波帯が近いために、「サウンドマスキング効果」が生じて、電車の音が聞こえなかった可能性を指摘する。

 検察側は、第2回公判で、洋一郎が電車に飛び込む瞬間を見たという、相馬真弓(松本若菜)を証人に立てた。洋一郎の死に事故の可能性が高くなったいま、真弓を再度法廷に召喚しようとするが、拒否された。

関連記事

新着記事

»もっと見る