田部康喜のTV読本

2020年12月25日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

(metamorworks/gettyimages)

 「科学立国ニッポン」は、新型コロナウイルスに打ち勝つことができるのか。NHKスペシャル「パンデミック 激動の世界」シリーズは、日本の科学の屋台骨が揺らいでいるのではないか、と問う。「“科学立国”再生への道」(12月20日)は、民間から文部大臣となり、その後も日本の科学教育のあり方にかかわってきた、有馬朗人さん(7日死去、享年90)の最後のインタビューを軸として、コロナと戦う研究現場を舞台にした迫真のルポルタージュである。

 番組の冒頭、有馬さんのインタビュー映像が流れる。

 「(日本の)教育環境のひどさは大変だ。日本がアジアで一番だと思っていたが、みんな下がっちゃった」

 新型コロナウイルスに関する論文は、世界で約8万本が書かれている。国別のトップ3は、米国と英国、中国である。欧州各国が続き、日本は16位に過ぎない。テーマ別でも「ワクチン」や「免疫」などの主要な分野で、日本の貢献度は低い。

 「科学立国ニッポン」の衰退の原因について、番組は「科学研究の司令塔」の不在に迫る。

 新型コロナウイルスに対するワクチン開発などでリードする、米国の国立衛生研究所(NIH)と、日本のコロナ対策は対照的である。

 NIHは今回のコロナ対策費として、米政府から最大2000億円の資金配分を任された。さまざまな研究チームに配分すると同時に、研究データは一元管理する。そのデータを検討して、必要と認めれば資金を追加投入する。

 さらに、ワクチン治験の最終関門でありかつ最もハードルが高い、臨床試験においては、全米で15万人の試験を受けるひとのネットワークをつくって、ワクチン開発者にこたえた。

 NIH・NIGMS所長のジョン・ローシュさんは、「(NIHは)開発から臨床まで一貫して指導する」という。

 日本はどうか。政府はワクチン開発の資金として、5つの研究チームに対して計485億円を配分した。

 大阪大学寄付講座教授の中神啓徳さんのチームは、110億円の資金を得た。ワクチン開発のスピードをあげるために、中神チームはウイルス利用ではなく、世界的に初の試みとなるDNAを活用した「遺伝子ワクチン」の開発を目指している。遺伝子情報をとりだして、免疫をつくり、大量生産が可能なDNAの特性に目をつけたものだ。

 開発に向けて、動物実験など、さまざまな段階を10カ所の研究機関に分担させるなど、スピード重視である。12月初旬に500人を対象にした、臨床実験にこぎつけた。これまでに比べると、異例の早さである。

 しかし、安全性を確認するには、1万人規模の治験が必要で、その確保は研究チームに委ねられている。そもそも、欧米に比べて感染者が相対的に少ない日本では、大規模な治験は難しい。共同研究している、創薬メーカーからは、海外での治験の提案があるが、そのためには新たに政府の資金を求める必要がある。

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