「35歳の少女」(日本テレビ・土曜よる10時)は、小学校4年のときに交通事故によって、意識を失ったまま25年間眠り続けた、時岡望美(柴咲コウ)がバラバラになった家族を再生させる物語である。「家政婦のミタ」(日テレ、2011年)の大ヒットで知られる、脚本家の遊川和彦がてがけた異色作である。冬のドラマシリーズのなかで満足度の高い傑作に仕上がった。
遊川の作品群は、想像を超える仮想の世界に、観るものを引き込んでいく。壮絶な過去と抱えた、家政婦のミタが派遣先の家族たちを立ち直らせ、感情を表さない彼女は涙のなかに別れていく。ドラマの最後にミタが愛情を隠して、家族につらく当たって嫌われるように仕向ける。仮想の入り口から、その結末は現実世界の家族の愛のありようをつきつける。
「35歳の」もまた、最終回にかけて観る者を驚かせるドンでん返しが待っているようだ。
病院のベッドに寝たままの望美(柴咲)が25年ぶりに目覚めたのは、奇跡だった。母の多恵(鈴木保奈美)が彼女の回復を諦めかけた、そのときトンボが病室の窓辺にとまる。多恵は繰り返し「とんぼのめがね」の歌を望美に聞かせてきたのだった。非常ベルが鳴った。その音に起こされたかのように、望美が目を覚ます。
望美の交通事故は、家族ですき焼きをしようとしたときに、豆腐がないことに気づいた多恵はまず、望美の妹の愛美(まなみ・橋本愛)にいかせようとするが、断られて望美が行くことになった。自転車での買い物である。しかし、その自転車はブレーキが壊れていた。坂道を下るときにそのまま車道にでてしまう。父親の進次(田中哲司)はブレーキを直していなかったことを悔やむ。家族はそれぞれが、望美の事故の原因が自分にあると思っている。
多恵(鈴木)は、望美の看病を必死で続けてきた。夫の進次(田中)はそんなふたりを見ることに耐えられずに、多恵と離婚して今村加奈(富田靖子)と再婚、今村姓となって加奈の連れ子の達也(竜星涼)と3人暮らしである。多恵が望美につきっきりで、自分に愛情を注いでくれないことに不満が募っている、愛美(橋本)は広告代理店に勤め一人暮らしである。それぞれが悩みを抱えている。進次は息子の達也(竜星)が引きこもりであり、愛美は、恋人の上司を家柄がいい若手に奪われ、上司にストーカーまがいの行為に及んで、会社にいづらくなって退社した。
目覚めた望美は、小学校の同級生で初恋の人である、元小学校教諭の広瀬結人(ゆうと、坂口健太郎)の助けを受けながら、心の成長を遂げていく。反抗期を迎え、結人と初体験を経験し、家族や結人との人間関係から逃げるようにして自立しいく。ユーチューバーとして、人々に呼びかけて、無駄している時間を相互に融通しあうビジネスで高収入を上げていく。かつての底抜けに明るく笑いながら、他人の幸せを考える性格にふたをしてしまう。