再生の芽はあるのか
大きな問題は、科学研究を担う若手研究者の疲弊である。期限付きの研究者の割合が急速に増加して、若手は安心した研究環境を得るのが困難になっている。
国立大学の40歳未満の教員において、「期限なし(長期雇用)」と「期限付き(短期雇用)」の割合をみると、2007年には、「なし」が61%に対して、「付き」が39%だった。ところが、2019年になると、「なし」が34%、「付き」が66%と大きく逆転している。
国立大学が2004年に独立行政法人になったことが要因である。政府からの資金は、従来からの大学運営費に相当する「運営交付金」と、新たに「競争的資金」の2本建てになった。後者は研究者が政府に申請して、資金を獲得するインセンティブを与えて大学を活性化する目的があった。
ところが、2006年の財政改革によって、「運営交付金」が毎年1%ずつ削減されることになった。この費用は人件費が大部分を占める。若手研究者は「期限なし」の職を得ることが困難になった。「競争的資金」による「期限付き」雇用が増えた。
「科学立国ニッポン」の再生の芽がないわけではない。番組は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)に目を向ける。2011年に設立された大学は、故・有馬朗人さんも理事としてかかわった。世界の大学、研究機関のなかで、影響力のある論文を発表しているベスト100のなかで、東京大学が40位なのに対して、OISTは9位である。世界トップクラスの研究機関と肩を並べている。
OISTの特徴は、3つに集約される。第1は、研究期間を短期に縛らない。第2は、研究状態の不断のチェック体制がある。第3は、研究分野を超えた連携である。
研究チェックを担当するのは、プロボス(Provost)と呼ばれる役職である。研究の司令塔役を果たす。研究予算の配分を統括し、進捗状態に応じて資金の追加もする。
プロボスのメアリー・コリンズさんは、生物学者として欧米の研究機関のチームにかかわって成果を上げてきた人物である。次のように語る。
「科学とは何度も挑戦して、失敗しなければ答えが得られない。私の役割は、科学者の先輩として助言を行うことです。ただ、上から管理するのではなく、着実に成果に導くような支援が重要なのです」と。
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