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2012年10月22日

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中西輝政 (なかにし・てるまさ)

京都大学名誉教授

1947年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。ケンブリッジ大学大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院・人間環境学研究科教授。2012年4月より京都大学名誉教授に。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。近著に『日本の悲劇 怨念の政治家小沢一郎論』(PHP)がある。

 さらに同法では、外国に居住する中国人も、中国政府の指示に従わなければならないとされている。有事などの際、日本に在住する中国人は中国政府の指示に従って日本で反日デモや暴動を起こす可能性も全くなしとは言えないだろう。つまり、日本国内での騒擾事件も起きかねないということも頭に入れておく必要があり、治安機関などにおいてもそうした想定での対応が求められる。

今後日本がなすべきこと

 中国の今後の動きに備えて、日本は次の3つの柱を打ち立てなければならない。

 第1の柱は、国際社会へ日本の平和的な意思を明確に発信することだ。その上で「日本は政府、国民の総意として尖閣諸島の国有化に踏み切った。国有化は絶対に撤回しない。現在の実効支配を徹底して守り抜く」という目標も明確に発信しておく必要がある。

 石原都知事が尖閣購入に合わせて提唱した施設整備もこうした意思を示す良い具体策と言える。自民党総裁選でも、全ての候補者が集団的自衛権の行使とともに、船溜まりや灯台の設置、公務員の常駐などを主張していた。

 しかし、こうした実効支配の強化策は、それを実行するタイミングが肝要である。今の状況で強行すれば、「日本の挑発」と国際社会に受け取られ、さらに「余計な刺激をするな」と米国世論も日本から離れてしまうことにもなりかねない。まずは、挑発せず、妥協しない姿勢をしっかりと示し、今しばらくの間は我慢比べする時だ。その間に国際広報によって日本への支持を確保し、実効支配の強化策実行に向けた戦略計画や予算措置を着実に進めておくべきである。

 実効支配の強化策を打つタイミングとしては、少なくとも中国の指導部が正式に交代を果たし、新体制の中長期的戦略目標が見えてくる来年3月以降まで待つべきだろう。

 第2の柱は、どのように話し合いのテーブルに着くか、その戦略を描くことである。これには慎重に備えておく必要がある。下手をすれば「領土交渉」に持ち込まれてしまいかねない。しかも中国による国際広報が万が一成功し、国際世論が中国を後押しするような状況になればこれを拒むのは難しくなる。他方、安易に交渉のテーブルに着いてしまえば、中国側に領有権にまで踏み込んだ交渉を要求されてしまう。このギリギリの隘路を突破する日本の戦略戦術を綿密に用意しておくべきであろう。

 日本は、「日本の主張を認めるなら交渉のテーブルに着いてもいい」とするか、多国間交渉などより大きな枠組みの中で話し合う環境に持ち込むべきだ。たとえば、南シナ海で同じく中国と対立するASEAN諸国と一緒に、東アジア全体をカバーする「海洋安保会議」を提案する方法があろう。迂闊に日中の2国間交渉をやれば、決裂した場合、即、武力衝突という事態になってしまいかねない。太平洋戦争前に安易に日米交渉を始めたことが、結局、開戦につながったという教訓もある。

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