チェコは去る4月17日、在プラハ大使館のロシア外交官18名の追放を決定した。翌18日、ロシアはこれに報復し、在モスクワ大使館のチェコ外交官20名の追放を決定した。20名を失っては大使館の機能を維持し得ないチェコは決定の取り消しを要求したが、ロシアが応じなかったため、4月22日、チェコは在モスクワ大使館と同じ水準の人員にまで在プラハ・ロシア大使館の人員を削減するとして新たに63名のロシア外交官の追放を決定した。それ程までに異常に多数のロシア外交官がプラハにいたことになる。
事の発端は2014年に遡る。2014年の10月と12月、チェコ南東部のヴルビェティツェ所在の弾薬庫で爆発事件が起きた。その後始末には、2020年12月までかかったらしいが、このほど、チェコは、この事件をロシアの情報機関によるものと断定した。そして、このほどの外交官追放に至ったのである。
今回、チェコとの結束を示すため、4月22 日、スロバキアが3名のロシア外交官の追放を決定し、続いて23日、バルト 3 国が同調してロシア外交官の追放(リトアニア2名、エストニア1 名、ラトビア1 名)を決定した。小国が集まってロシアに立ち向かう構図が際立っている。NATO(北大西洋条約機構)は4月22日、チェコとの結束を確認する声明を発表したが、NATOあるいは EUと主要国が具体的な行動をする様子は今のところ見えない。
これに関して、キーア・ジャイルス(王立国際問題研究所上級フェロー)とトーマス・イルヴェス(元エストニア大統領)が、欧州はロシアに攻撃されているとの共通の認識を持ち、気休めの言葉ではなく行動で対抗すべきであるとする論説を、4月23日付の王立国際問題研究所のサイトに投稿している。
この論説は荒っぽくてあまり感心しないが、チェコの弾薬庫の爆発など、ロシアの戦闘的あるいは挑発的行動に対する欧州(NATOやEUの加盟国)の反応は鈍いという批判は当たっているように思われる。
欧州諸国のロシアとの関係を一律に揃えることは、もとより可能な相談ではない。ではあるが、幾つかの重要な問題でのEUの対応が、ロシアにEUを甘く見させ、つけ入る隙を与えているようにも思われる。典型的には、ウクライナやポーランド、バルト諸国の反対にかかわらず、ドイツが頑強にノルドストリーム 2を推進する構えを変えていないことがそれである。
新型コロナウイルスのワクチンの問題もある。EUではすべての加盟国のために欧州委員会が一括してワクチンを調達することになっているが、調達の遅れに業を煮やし、ハンガリーは兎も角、ドイツまでもがロシアのスプートニクVを調達すべく交渉に乗り出した。もしEUがロシア経済にリスクをもたらす制裁に及ぶなら関係断絶も辞さないというラブロフ外相の脅しが利いたかどうかはわからないが、EUは、ナヴァリヌイが望むような強い制裁を取り得ていない。大分前のことであるが、マクロン大統領がプーチン大統領を招いて独自に関係調整を試みたこともあった。
EUにとってロシアの扱いは最も切迫した問題であるが、最も結束することが困難な問題でもある。それを承知のことであろうが、去る2月、ラブロフ外相はモスクワを訪問したボレルEU上級代表に恥をかかせることをやった。ボレルとの共同記者会見で、ラブロフ外相はEUは「頼りにならないパートナー」だと言ってのけた。ボレルの訪問中だというのに彼に知らせることなく、ナヴァリヌイ支持のデモに参加したとの理由でEU3ヶ国の外交官の追放を公表した。
バイデン政権のロシアに対する姿勢は、トランプ政権時代から大きく転換し厳しく当たる様子であることは、先頃の制裁の内容から読み取れる。EUの外交を統括する上級代表の制度を折角作ったものの、あまり機能しているようには見えないが(上級代表に人を得ていないことも要因であろう)、EUもロシアに対して結束して、もう少し確固たる態度で当たれるよう転換すべき時にあるように思われる。
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