2012年6月は、欧州の債務危機が深刻化していた中、欧州経済とりわけギリシャがアメリカの国内経済に及ぼす影響が懸念されていた。連邦議会では欧州経済がインテリジェンス・マターとして扱われ、関連委員会でも報告や検討がなされていた上に、オバマは国民に安心を与えるために6月8日に会見まで開いた。しかし、その記者会見で(結果がまだ出ていない公共投資に比べて)「民間部門は改善している」と発言したことが揚げ足を取られる形で批判されていた。
スーパーPAC危機と
医療保険改革をめぐるカトリック離反危機
また、6月5日のウィスコンシン州知事の現職スコット・ウォーカーのリコール選挙でウォーカーが勝利してしまった。公務員の団体交渉権を制限しようとした知事に反対して、民主党は労組と連携して現地のサポーターを動員してきた。ウィスコンシン州は激戦州でもあったことから、ウォーカーの延命はオバマ陣営を落胆させていた。
ロムニー陣営がスーパーPACで巨額の資金を集めているのに、オバマ陣営が資金集めで後手にまわっている危機感も陣営内に激しかった。スーパーPAC資金はウィスコンシンにも流れ込み、リコール選挙に影響を与えたと囁かれていたからだ。共和党支持層が民主党の7倍の資金をウィスコンシンに集積させたとも言われた。
加えて、医療保険改革法の問題が、宗教問題それも民主党の基盤であるカトリック層に飛び火する事件が生じていた。オバマ政権の医療保険では避妊薬にも保険を適用させるという方針に、カトリック団体が噛み付き、オバマ政権は窮地に立たされていた。
カトリック教徒は激戦州の重要なスィングボーターである。43のカトリック団体が12の連邦地裁に訴え、ジョージタウン大学ロースクールの女子学生が、学生には避妊のコストは重いと訴える議会証言をするに至り、学生の本文をはき違えていないかという含意の批判も共和党から飛び出した。女性票を失えないオバマ政権としては、カトリック団体に個別に理解を求めるしか方法がなかった。
6月下旬の最高裁の判決で医療保険改革法が違憲とされれば、オバマの再選は閉ざされるとすら言われていたのだ(医療保険改革法には合憲判決がくだってオバマ陣営はほっとしたが、かえって保守派の「反医療保険」「反オバマ」のエネルギーを焚き付けた面もあった)。
イラン情勢についても緊張感が高まっていた。原油価格が上昇して、ガソリンに影響が出ればそれこそオバマ陣営は終わりだと関係者の誰もが語っていた。
クリントン政権とニューデモクラットの時代
オバマと選対顧問アクセルロッドが推進する「経済ポピュリズム」路線には、ニューデモクラットと呼ばれる民主党中道派からは懸念が示されていた。