反日デモが吹き荒れる9月22日、中国でわが社の社員の結婚式があった。福建省の厦門(アモイ)から自動車で2時間ほど行った龍岩という所に400人以上の親族や関係者が集まった。新郎は私の古い友人で、タングステン工場長の息子さんの顔熠(ガンユ)君。新婦は、わが社の女性トレーダーの崔基子さんである。新婦のご両親とご親族は韓国から、日本からも多くの同僚や友人が日中関係の悪化にもかかわらず駆けつけた。
(筆者撮影)
結婚式では、主賓のスピーチを求められて2つの言葉を新郎新婦に贈った。1つ目は「信は縦糸、愛は横糸、織り成せ人の世を美しく」という言葉で、2つ目は「井戸を掘った人を忘れない」という言葉である。夫婦はお互いの信頼と愛情が大切であるが、同時に自分たちが今あるのはご両親や周りの人々のお蔭であるとスピーチした。
実はこれは日中国交回復に努力した元全日空社長の岡崎嘉平太氏と周恩来首相の言葉だ。結婚式の場には政治の話は相応しくないとは思ったが、流れで日中平和友好条約の経緯まで話すことになった。
1962年に周首相と岡崎氏は両国の覚書貿易を推進したが、国交のない時期だから、大変な努力が必要だった。72年に田中角栄首相が訪中して日中国交正常化が調印される直前、周首相はわざわざ、岡崎氏をねぎらうために北京の人民大会堂に緊急に招待をして小宴を行い「我々は古い井戸を掘った人のことは決して忘れない」と話した。一方の岡崎氏は「信は縦糸……」という先の言葉で日中関係の未来を予言した。
私がこの2つの言葉を選んだのは、日中関係は信頼関係と友愛関係が基礎となり、その後の両国の目覚ましい発展につながったことを思い出してほしかったからだ。
これに比べて最近の両国のドタバタ劇は子供じみているし、信頼感もない。日本政府の外交手法にはしたたかさがない。中国も「愛国無罪」の名のもとに起こした、暴動や略奪というテロ行為で国際的な信用を落とした。