「ビスポーク」とは何か?
オーダーメードスーツのことを「ビスポーク」と呼ぶが、これは「be spoken for(顧客のために話す)」ことが語源とされている。サイズはもちろん、使用される生地の来歴、ボタンの解説、そして顧客の職業、役職、用途、顧客の様々な話を聞きながらふさわしいスーツを決めていく。そして、この対話のなかで顧客もスーツに対する知識を深めることができる。例えば、こんな話だ。
「トランプ前大統領の補佐官を務めたジョン・ボルトンさん。普通、オフィシャルな場面ではボタンダウンのシャツは避けることがマナーですが、ほとんどどんな時もボルトンさんは、ボタンダウンで通していました。それは、アイビーリーグ(ハーバード大学など米東部の名門8校)出身であることを誇示しているからです。
以前、某大手企業の社長秘書から『社長がボタンダウンを着たいと言っているのですが?』と、問い合わせがあったとき『それは避けたほうがいいです』と答えたました。電話を切った後に、もしやと思って電話をかけ直しました。『もしかして、社長はアイビーリーグ出身ですか?』と。すると、コロンビア大学出身だったのです」
何気なくボタンダウンを着るだけではなく、そこに意味があることを知ると面白くなるし、意味を知っていて着る、着ないの選択をするほうが、自律したビジネスパーソンとしてふさわしい。安くて機能的なスーツも悪くはないが、これまで知らなかったスーツの世界に一歩踏み出してみるのも悪くない。
「そもそもサイズが合っていないスーツを着ている人が少なくありません」と宮崎さん。その背景には、「顧客のために話す」ことができるスーツ販売員が少ないこと、一方でそのような話を聞く機会があるお店に足を運ぶビジネスパーソンが、そう多くはないからではないだろうか。「どんなゲームでもルールを知らなければ楽しくないですよね。スーツも同じだと思うんです。最低限、スーツのルールを知ればもっと楽しんで着ることができると思います」。まずはスーツのことをもっと知ること、知らせることによって〝着てみたくなる〟スーツを作ることができるはずだ。