コンテナ貨物の運賃が暴騰している。日本海事センターによれば5月には上海~ニューヨーク間、40フィートコンテナで8900㌦を記録した。前年同月の3080㌦から3倍近く跳ね上がった格好だ。
背景には、新型コロナウイルスのまん延による巣ごもり需要に加え、ワクチン接種が進むなかで消費が急回復していることがある。
日本海事センター企画研究部の後藤洋政氏は予想は難しいとしながらも「港の混雑によってコンテナの回転率が落ちていることから、しばらくこの高値圏が続くのではないか」と指摘する。また、すぐに一般消費者の目に見える形で物価上昇が起きていないのは、「全業種の平均売上高物流コスト比率は5%程度であり、上昇分を企業が吸収している段階」(同)だからだ。
さらに今年1~5月までのアジア(18カ国・地域)から米国へのコンテナ荷動き量は、39.5%増の883.7万TEU(20フィートで換算したコンテナ個数)を記録し、コンテナそのものが不足するという事態となり、運賃の暴騰につながった。
コンテナ不足が起きた背景には、「複合的な要因がある」と指摘するのは、野村総合研究所アーバンイノベーションコンサルティング部の宮前直幸氏だ。今年2~5月にかけて米西海岸のロサンゼルス・ロングビーチ港では沖待ちをするコンテナ船が30隻を超え、荷役開始まで10日、滞留するコンテナが最大40日にも及ぶという異常事態になった。コロナ禍で出勤する荷役作業員が減ったことが影響したためだ。
これに加え、コロナ発生直後にはコンテナの産地である中国での生産が減少したこと、いち早く経済を回復させた中国発のコンテナが増加する一方で、欧米の経済の立ち上がりまでにタイムラグがあったことから、欧米にコンテナが滞留してしまうなど、複数の要因でコンテナ不足を招いた。
「船会社によると少なくとも今年の第3四半期(6~9月)まで影響は残ると見られている。コンテナ運賃の高止まりが続けば、各種製品への価格上昇圧力は高まるだろう」(宮前氏)
夏場は貨物需要のピーク
状況が深刻になる可能性も
日本の大手船会社、日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ部門が統合して2017年に発足したオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(Ocean Network Express =ONE)のビジネスプランニング・副ジェネラルマネージャー・秋谷匡人氏は「現在は、コンテナの在庫状況は回送の徹底(適切な場所への移動)や調達の強化で若干改善したものの、船のスペースは未だに逼迫している状況が続いている。世界中でコロナ蔓延による労働力不足や検疫強化の影響により、港の生産性が落ち、混雑が深刻化している事例が引き続き散見されている。これに加え、特に欧米では手厚い補助金制度やワクチン接種の進展によって夏休み取得が進み、労働力不足が予想されていることや、例年夏場は貨物需要のピークとなっていることから、今後もコンテナおよび船のスペースの不足がさらに深刻になる可能性もある」と話す。
「コンテナほどグローバリゼーションに貢献した存在はない」。こう話すのは東京大学大学院工学系研究科の柴崎隆一准教授。「トラック運転手だったマルコム・マクリーン」(『コンテナ物語』マルク・レビンソン、日経BP)によって1950年代に始まったコンテナリゼーションは、ベトナム戦争の兵站でも活用され、世界中に広がった。バラ積みされた荷がコンテナにパッキングされることで荷役業務の効率は飛躍的に改善し、世界の隅々にまで物資が行きわたることに貢献した。
一方で効率的であるがゆえにコンテナ業界の競争は苛烈になり「液化天然ガス(LNG)など特殊船と違い、コンテナは儲からない」(業界関係者)事業となった。特に、08年のリーマンショック以降、荷動きが鈍ったことで、運賃が下落して厳しい状況が続き、プレーヤーの合従連衡が進んだ。現在、「2Mアライアンス」、「オーシャンアライアンス」、「ザ・アライアンス」の3つのグループに集約されている。
同じく効率化という点では、コンテナ船の大型化も進んだ。現状の最大規模で全長400㍍、2万個超のコンテナを運ぶ船が運用されている。ただ、ここでも問題が生じている。「大型船と中小型船で作業のピークに大きな波ができるようになった。港の自動化を進めることが解決策の一つになるが、先進国のように既存の港を抱えていると荷役作業者の雇用の問題などもあり簡単には進められない」(柴崎准教授)。