2024年11月25日(月)

渡辺将人の「アメリカを読む」

2012年11月11日

 概ね共和党関係者の口から漏れるのはこれと同じ論調である。前述の専門家のようにハリケーンの効果が1日で収束したと見た者から、モリスのようにハリケーンの影響をまったく考慮しなかった者まで、同様に「ハリケーンにやられた」と口にしている。

 たしかにオバマ陣営側がハリケーンを上手に後ろ盾として直前戦略に活かしたのは事実だ。第1に、自然災害では政府の必要性を強調できる。たまたまロムニーはFEMA(連邦緊急事態管理庁)の廃止を訴え、自然災害対応を州レベルに任せるという趣旨の発言をしていた過去があった。オバマ陣営側は、空中戦・地上戦問わず、直前のキャンペーンを通じてロムニーのFEMA廃止論を拡散することで、ロムニーの先見性の無さと連邦政府の必要性を同時に強調できた。

 第2に、ロムニーが選挙戦を通じて遠ざけてきた「ブッシュ」という負の記号を選挙直前に呼び覚ましたという、共和党側が主張している点だ。たしかに、ジョージ・W・ブッシュ大統領の不人気は、ハリケーン・カトリーナと共に記憶されている。

「ブッシュ」という響きを遠ざけてきたロムニー

 ハリケーンへの不手際は共和党には鬼門であり、フロリダ州タンパで開催された2012年全国党大会でもハリケーン接近にもかかわらず、同じ南部のルイジアナ州への直撃を尻目に、党大会を1日延期しただけで開催を決断し、テレビ画面にはコスチューム姿の党大会の代議員の愉快なお祭り風景と共に、家屋に浸水して避難する市民の姿が同時に映された。

 たしかに、オバマ陣営のキャンペーンや陣営周辺の言説には、ハリケーン後「ブッシュ」という文字が増えた。これは2つの点に収斂していた。1つは、クリントンの応援でオバマ陣営が「党の一体感」をアピールするキャンペーンを徹底したのに対し、ロムニーのキャンペーンで、ほとんどブッシュの姿を見かけなかったことが、逆説的に浮き彫りになったこと。「直近の自分の党の大統領を誇れず、党の主張の一貫性を唱えられるのか」と民主党は攻撃した。

 ロムニー陣営は苦々しく思いつつも、効果的に打ち返せなかった。「ブッシュ」という響きを遠ざけてきたのは事実だからだ。オバマ周辺が言うように、ブッシュ外交が不人気だからというのもあるが、「大きな政府」の共和党政権と揶揄されたブッシュ時代は、ロムニーの州知事時代の「穏健性」を有権者に連想させるリスクもあった。ティーパーティの源流はそもそも「反ブッシュ政権」だった。ロムニーの保守地盤固めには、党内事情の足かせが多過ぎた。


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