2024年4月17日(水)

Wedge REPORT

2021年7月28日

 これらの地域は老朽木造住宅の密集地帯であることが多く、家賃も低価格となる。家賃別の借家居住者の年齢別分布(下図)をみると、東京都全体の家賃平均8万円未満の借家人は25歳未満と65歳以上に多い。

(出所)「住宅土地統計調査」(2013年、総務省統計局)を基に筆者作成
(注)8万円(東京都の家賃平均)未満・以上の賃貸物件に関する年齢階級別分布(23区内) 写真を拡大

 25歳未満の分布は大学生や就職間もない社会人だと考えられるが、65歳以上の分布はどのような特性を持つ人たちなのだろうか。下図は持ち家居住者の所得分布を年齢階級別にみたものである。加齢とともに、所得分布のピークが高いクラスに移動している。これは日本の雇用が一括採用とOJTの組み合わせで、年齢とともに賃金が上昇していくことが一般的であることを反映したものと考えられる。一方、借家居住者に関する同じ図は、所得階級のピークが加齢によってほとんど変化がなく、最も低い階級に固定されている。これは、就職によって賃金が上昇し、豊かな生活を享受する機会に恵まれた者は持ち家を選択していき、高齢になっても借家を選んでいる者は、何らかの理由により、そのようなパスから取り残されてしまった者が多いことを示している。

(出所)「住宅土地統計調査」(2013年、総務省統計局)を基に筆者作成 写真を拡大

 結果として、東京圏では予算制約などから低家賃住宅に居住することを余儀なくされる若者や高齢者が、家屋の老朽化問題や災害リスクにさらされているのだ。とりわけ、地域の情報に乏しく、選ぶ時間も限られているなかで、進学や就職のために都外から待ったなしの転入をしなければならない若者が危険地域への転入を余儀なくされていることを示したが、借家への入居差別により転居が難しい高齢者も同様の傾向がみられる。

建物の新陳代謝を阻む
現行法の課題とは

 東京圏における家屋の老朽化対策が遅れている原因の一つが「取り壊すこと」、「更新すること」が不得意な現行法の問題だ。東京圏ではマンションのような区分所有住宅が多いが、これらを取り壊すためには区分所有者全員合意が必要となる。建て替えであっても5分の4同意が求められる。老朽化した賃貸住宅を耐震化のために建て替える場合であっても、家賃上昇を忌避したい借家人の権利が手厚く保護されるため、必要な同意が得られず、その他の住民の災害リスクが放置されることとなる。

 また、現行法では新たに住宅を建築したり、建て替えたりする場合は今の建築基準を満たす必要がある。しかし、建築基準が定められる前に建てられた住宅には、「後から決めた基準に適合させろ」とは言えないため、建て替え時に基準への適合が求められることになる。新耐震基準に適合しない住宅、老朽化した住宅は安全性に劣るため建て替えが必要になるが、土地や建物によっては建て替え時に、規模を縮小して住民を減らす必要が出てくるかもしれない。そうなれば建て替え費用が追加で必要となるにもかかわらず、家賃収入は目減りをしてしまうので、リスクを抱えたまま現状の老朽住宅を存続させる場合も多い。

 今後、マンションや借家の老朽化がさらに進めば当然リスクも大きくなる。災害に対して危険な地域の建て替えや除却については、区分所有者同意の割合基準を下げたり、耐震基準以外の建築基準への適合を必ずしも求めない建て替えを認めたりといった柔軟な対応が必要となるだろう。建て替えないことのリスクと、現在の基準にそぐわない建て替えを行うことのコストを比較すれば、前者が圧倒的に大きいと考えられる。


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