2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2021年7月28日

 東京圏は今後、加速度的に進行する「都市(建物)の老朽化」と「人口(地域住民)の高齢化」という二つの〝老い〟にさらされる。日本の住宅の寿命は20~30年と言われるが、築後38年以上の住宅の比率を東京都と埼玉県、千葉県、神奈川県でみると2008年に9.6%であったものが、18年には17.7%と倍増している。65歳以上の高齢者数は同じ時期(05~15年)に1.4倍となった。

 人口減少もすでに始まっている。特に、1950年代半ば以降に多くの人が同時に移り住んだ、東京郊外のニュータウンや公団住宅などでは高齢化が進み、公共施設も維持できず、街としての成立が危ぶまれる事例も出てきている。これらは地方で起こっている問題と本質は同じだが、人口減少トレンドを受け入れざるを得ない地方と異なり、今はまだ拡大し続ける巨大生活圏がすぐ近くにある東京圏郊外では、「『街の魅力づくり』によって人が移り住んでくれる」といった希望的観測を抱きやすく、本質的な対応に後れをとる可能性がある。

 さらに今後問題が顕在化してくるのが、都心部での〝老い〟だ。自由に建て替えや建物の除却を行いうる持ち家一戸建てと異なり、借家権(入居者=借主側の権利)が手厚く保護されているため、老朽化に手を打てない借家が集中している地域は、都心のいたるところに存在する。区分所有法によって規律されているマンション開発は70年代に都心部から始まり、老朽化がかなり進んでいるものもある。

 そもそも、住宅のように物理的な耐用年数が非常に長い財については数量調整が働きにくいが、区分所有関係を解消して建物を除却したり、建て替えを行う場合に、高い同意要件が課されるマンションについては、この傾向が顕著だ。人口減少および建物の老朽化に伴い需要の減少が引き起こされた場合、価格調整が極端に進む。結果、低所得者、知識・技能の低い居住者の流入を招く。つまり、マンションストックが大量にある地域での人口減少が、地域のスラム化をもたらす可能性を真剣に考える時期にきている。

 人口減少やその高齢化に端を発した東京圏郊外の老朽化と、都心部の中でも開発時期が古いエリアから始まる老朽化が、外側から、内側から進行し、交錯する。

都内の若者や高齢者に
横たわる災害リスク

 東京圏における老朽化はどのようなリスクをもたらすのか。

 人口減少が進む全国自治体と異なり、東京圏ではいまだ人口が増え続けている。その主体となるのが進学や就職に伴い地方から移り住む若者世代だ。「住民基本台帳人口移動報告」(2013~17年)によれば、東京都への転入者は20~29歳が最も多く(約4割)、30~39歳を加えると7割近くを占める。

 ここで、東京都内部の転入者と東京都外からの転入者に分けて、都外から多くの人が転入している地域の特徴をみてみよう。下図は各地域の東京都内部の転入者の地域分布を基準として、都外からの転入者の比率との差異を描いている。都外からの転入者は、東京都の発表している地震危険度の高い地域(例えば、足立区、江戸川区)に多く分布していることがわかる。

(出所)住民基本台帳人口移動報告(総務省、2013~17年)を基に筆者作成
(注)各市区町村への都外からの転入者の分布から東京都内部の転入者の分布を引いた数値を、東京都が公表している地震危険度(建物倒壊危険度)順に並べた
※建物倒壊危険量(棟/ha)の地域ごとの平均値 写真を拡大

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