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2021年8月5日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

メンバーシップ型はiPS細胞を求めるようなもの

── たとえば日本でも試用期間はありますが、試用期間後に解雇されるというのはあまり聞きません。

濱口 日本では、試用期間はほとんど重視されていません。なぜなら、メンバーシップ型の雇用システムでは、あるジョブへの適性があるかどうかで採用しているわけではなく、新卒の何者でもない学生を会社で鍛えれば数年後にはできるようになるに違いないということを間接情報から判断して採用しているわけです。

 その時に一番重要な要素が年齢です。メンバーシップ型の採用というのは、たとえばiPS細胞のようなものです。iPS細胞自体は、初めはなんでもないですが、手に置けば手の細胞になるなど、さまざまなものに変化します。新卒の若いピチピチとしたiPS細胞ならば、会社のどの部署においても仕事ができるようになるだろうという判断です。

 逆に、ある程度歳を取った古びたiPS細胞では可変性や柔軟性に欠けるだろうという判断です。

── 学歴はどの程度重視されているものなのでしょうか?

濱口 世界を見渡しても、どの国でも学歴は重要です。ただ、日本と他国では学歴の意味合いが違う。採用というのは、ある種賭けなのです。あるジョブの即戦力になるかどうかを見極める一番の素材は学歴。どこの大学で何を学んできたかです。

 日本の場合、即戦力ではなく、潜在能力を見ていますから、大学で何を勉強してきたかよりも、大学入学時点で、どれくらいの偏差値だったかを見ているわけです。よく言えば、潜在能力の高さにつながる学習能力の高さが大学入学時点での偏差値として見ているのでしょう。

── 私は就職氷河期を生み出したのはメンバーシップ型が原因だと考えています。学校から企業への切れ目ない移行が妨げられた結果、仮に学歴が高くても30歳前後になってしまい正規雇用されない例が多く見られます。先ほどの濱口先生の言葉を借りるならば、古いiPS細胞は不要だと言わんばかりにです。

濱口 就職氷河期を生み出した構造的な原因になっているのは間違いありません。ただ、経済停滞などの外的な影響によって労働需要が急激に縮小するのはどこの国でも起こっていることで、その影響が一定期間残るのもどの国でも共通なのです。

 しかし、ジョブ型の社会だと経済の回復により徐々に平準化するのに、日本ほど時間は掛かりません。特に、先進諸国においては、失業者や不安定な労働環境にいる人々に対しては、政府が介入し、予算を投入して職業訓練などの支援を行っています。それによってスキルを身につけるとクオリフィケーションが得られ、採用する際に重要な判断基準になります。一定期間の遅れはありますが、そうした政策により、段々と企業に採用されていきます。もちろん、人によってさまざまなケースがあるのも確かでしょうけれども。

── 似たような制度として日本でもジョブ・カードというのがありました。

濱口 2002年に未就職卒業者就職緊急支援事業が始まり、2003年に若者・自立挑戦プランという政策文書が取りまとめられました。2007年に職業能力形成システム、すなわちジョブ・カードが打ち出された。OJTと座学を組み合わせたプログラムを提供し、ジョブ・カードを交付しました。

 当初、ジョブ・カードによって、未就職者も採用されやすくなると考えられていたのですが、あまり効きませんでした。そして民主党政権下の事業仕分けで廃止されます。つまり、メンバーシップ型では、その時に何ができるのかではなく、何もできなくても上司の教育や訓練によってできるようになることが求められるのです。

 ただ、中小企業に目を向けると事情は若干異なります。日本の大企業は、メンバーシップ型の正社員とジョブ型に近い非正規雇用で成り立っています。一方、中小企業の場合、大企業に比べ、現象論的にはメンバーシップ性が薄いんです。かといってジョブ型でもない。ただ、中小零細企業の場合、人手も足りず、経営的にも厳しい企業もありますから、すぐに働ける人を採用する。結果的に、就職氷河期世代の人たちの相当部分が中小零細企業に採用されていきました。

── 同じような学歴でも、就職氷河期世代では大企業に就職できた人と、非正規を経て中小零細企業へ就職した人に分かれると。

濱口 ただ、非正規を経て中小零細企業で正規雇用された人たちは、明らかに賃金水準が低いんですね。もちろん、新卒で正規雇用された人と比べ、遅れて正規雇用されたという年功効果もありますが、日本は企業規模別格差が大きい社会なので、その差は大きいと思います。

── メンバーシップ型とジョブ型では、それぞれの特徴があり、メリット、デメリットがあると思います。

濱口 粗雑な言い方になりますが、若者からすればジョブ型は損で、メンバーシップ型は得です。ただし、就職氷河期では損をします。

 逆に中高年にとっては、ジョブ型は得で、メンバーシップ型は損です。なぜなら、経験を積み重ね、いろんなことができるようになっているはずなのに、メンバーシップ型の雇用システムでは年齢だけで他の企業へ転職しにくいからです。

── すると欧米では、若者はかなり苦労をすると。

濱口 今から約25年前、ベルギーのブリュッセルのEU代表部で3年ほど働いていたことがあります。街を歩くと、平日の昼間でも若者がプラプラしているのを見かけました。

 欧米社会では、すべての時期において氷河期に近い状態です。日本のように学校卒業後、すぐに働けるほう社会のほうが珍しいのです。

 ただし、損得勘定で言うと、一番損をしているのは女性です。メンバーシップ型では、さまざまな部署を異動しながら、どんな仕事をもする形を取っています。女性の場合、若いうちはまだしも、出産し子育てをしなければならなくなると、そうはいかなくなってしまう。さすがにいまは女性だけが育児や家事をする時代ではないけれど、その矛盾を抱え込みながら働かなければならないのが実情でしょう。

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