コロナ禍の終息が見えない中で、大手企業が就職内定者の仲間意識作りに苦労している。せっかく採用したにもかかわらず、相談相手もなくパソコンと向かい合うだけのリモート研修だけでは、孤独感が強まり内定辞退者が出る恐れもある。こうした人事担当者の不安感を取り除くため、特に採用者の多い大企業の人事担当者の間で評判になっているのが、体験型プログラム「バヅクリ」と呼ばれる、アソビ(遊び)を取り入れたオンラインツールだ。導入した企業は4月末現在で200社近くに達している。昨年8月にこのビジネスを開始、急成長させたアソビベンチャー「プレイライフ」の佐藤太一社長(39歳)にヒットした理由と今後の展開を聞いた。
挫折から思いつく
コンサルタント会社に勤務していた29歳の時に1カ月520時間働きづめたことから、意識がもうろうとなり電車に飛び込みかけた。幸い九死に一生を得て助かったが、その際に頭の中に浮かんだのが子供の頃に楽しかった秘密基地や、友達と作ったいかだ作り、大学の時のバンドイベントなど「遊びの思い出」だった。「自分のやりたいことはこれだ」と直感し、「遊び」をビジネスにする起業を決意し、2013年に「プレイライフ」を創業した。
「最初は遊びの『クックバッド』のような、遊びの導線を見つけて若者に投稿してもらう広告モデルで400万人のユーザーを集めて成功したが、コロナ禍で売上が95%ダウンして、違う事業に転換せざるを得なくなった。これまではBtoCのビジネスだったが、若者は遊びの仕方を知っていることが分かったので、次はBtoBでやってみようと思い、遊びと学びの体験を通してつながりの場を持てるプログラム『バヅクリ』を昨年8月に立ち上げた」という。
特に大企業の人事担当者は、これまでは当たり前にできていた内定者の一斉研修がコロナ禍でできなくなっていた。「昨年の夏ごろから、内定者の懇親会ができない、内定者のフォローができなくて困っているという声を多く耳にした。グーグルの検索でも内定者フォローをどうしたらよいのかで、月間で数千件も検索があった。このタイミングで『バヅクリ』をリリースしたら最初の月でWebに100件以上も問い合わせが来た」と手ごたえをつかんだ。
参加者がお互いにパソコン画面上で顔を見ながら、オンラインで遊び感覚で「非日常」を共有できる、「お絵描き」「マインドフルネス(瞑想)」「寸劇」などのメニューを用意して、人事の担当者に提案したという。佐藤社長は「企業の研修だと、受ける側は『やらされ感』があるが、『バヅクリ』は遊びと研修の間のようなプログラムで、他社では『謎解きゲーム』など単体のプログラムはあるが、わが社のように多様な内容になっていない。会社の中にいる人事担当者は大量の内定者の人間関係を盛り上げることができないが、われわれならば、ざっくばらんな関係を構築するサポートができる。その結果として内定辞退率を下げることと仕事に対する動機づけが目標」と話す。
内定者500名が参加
一度に数十名参加する初対面の内定者を和ませるために、プログラムの進行役にはプロの研修講師、劇団俳優、アナウンサーやウェディング司会者などをトレーニングして業務委託している。企業側は、コロナ禍で研修に多くの費用をかけたくない事情もあり、このプログラムに飛びついた。企業研修をビジネスにしている会社はいくつもあるが、細かいプログラム作りは手間が掛かり、ノウハウも必要なことや、1回当たりの売上が小さいなどから追随する企業もなく、企業間の口コミなどを通して「バヅクリ」を導入したいという企業が急増した。
現状は、みずほフィナンシャルグループ、ふくおかフィナンシャルグループ、かんぽ生命保険、三井住友海上火災保険など金融系が多いが、アイシン精機などメーカー、製薬会社など多様な企業が導入している。平均すると50名以上の内定者がいる企業が多い。このほか自治体や労働組合なども取り入れている。人を集めたイベントができないので、代わりに「バヅクリ」で代用しようとする動きもある。
一度に500人の内定者がいたみずほフィナンシャルでは、昨年の9月、11月、今年2月と3度に分けて合計30回行ったという。
プログラムは単発ではほとんど受けておらず、年間6回から24回分のチケット制で展開している。料金は6回が120万円、1年間通して24回が360万円。1回のプログラムに掛かる時間は約1時間半。さらに中小企業向けに「バヅクリ」をコンパクトにした割安料金の30分プログラム「バヅクリ エモ」もリリースした。