2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2021年2月18日

 電気自動車(EV)の普及に向けての動きが加速する中で、EV性能を大きく左右する高性能のバッテリー開発に熱い視線が注がれている。現在は液体の有機電解液が使われているリチウムイオン電池が主流だが、これに代わる新しいEV用バッテリーとして国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2007年から同じリチウムイオン電池ではあるが、液体ではなく固体の無機電解質を使った全固体電池の開発を進めている。開発の現状と課題について、次世代電池・水素部蓄電技術開発室の田所康樹主任研究員に聞いた。

開発中の全固体リチウムイオン電池

――NEDOが全固体電池を開発することになったきっかけは何か。

田所主任研究員 全固体電池のブームのきっかけの一つとして、2011年に東京工業大学の菅野了次教授が、液体のリチウムイオン電池に用いられている電解液のイオン伝導度より高性能な難燃性の固体電解質を見つけて科学雑誌「Nature(ネイチャー)」に発表したことが挙げられる。NEDOの全固体電池の研究開発は、07年度開始のプロジェクトから15年近くの歴史があるが、18年からは全固体電池だけにターゲットを絞ったプロジェクト「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」をスタートした。トヨタ自動車などの自動車メーカーや蓄電池・材料メーカー、大学や公的研究機関の研究者などが加わって「オールジャパン」で研究開発していくプロジェクトになった。

――現在主流となっている液体のリチウムイオン電池と比較して、全固体電池は何が優れているのか。

田所主任研究員 大きくは4つ利点がある。1つ目は、液体の場合は可燃性の電解液が用いられているため燃える危険性があるが、固体電池は難燃性の固体電解質を用いており、安全性が高い。2つ目は、液体の場合、特に高温で使用すると電解液が劣化、さらには分解してしまうため冷却装置が必要になる。一方、固体の場合は200℃まで耐えられる電解質もあり冷却しなくてよい可能性がある。現在、車に積載する場合は冷却が必須で、例えば日産自動車「リーフ」は空冷、テスラは水冷方式で冷却している。

 3つ目は、高エネルギー密度化により、同じ大きさでより多くの電力を蓄えることができる。液体の場合、4.5ボルト以上になると電解質が分解してしまうが、全固体の場合は5ボルト以上充電できる可能性がある。このことで、車体に積載する電池の大きさをコンパクトにできるようになる。4つ目は、充電時間を短くできる。いまの急速充電では30分ほどかかるが、われわれのプロジェクトではこれを10分以内への短縮を目指している。

――現在の開発段階で、克服しなければならない課題は何か。

田所主任研究員 液体と比べて、固体電池の方がイオン伝導度が高く、電解質の中でリチウムイオンが通りやすいメリットはあるが、電極や電解質がすべて固体であり、固体と固体で接触する界面と呼ばれる部分の抵抗が大きくなり、イオンの流れが悪くなる恐れがある。このため、この界面抵抗をいかにして下げるかが課題になっている。現在は電極に圧力をかけることで界面抵抗を下げる工夫などを行っている。

 もう一つの課題は研究レベルでうまくいっても、この全固体電池を実用化するためには量産できるかどうかだ。大量生産するためのプロセスをどうするかの研究を続けている。

――NEDOとしては全固体電池を何年ごろまでに実用化を計画しているのか。

田所主任研究員 昨年末に菅義偉首相が脱炭素社会の実現を目指す計画を発表し、国内の新車販売を30年代半ばまでに電動車100%を実現する目標を掲げた。また各自動車メーカーは20年代前半にいくつものEVを発売すると打ち出すなど、EVシフトが加速している。NEDOとしても、それまでに間に合うように開発を急ぎ、25年までには車載用の全固体電池の実用化を目指したい。

――全固体電池の技術開発で日本勢が持っている特許の数は多いようだが。

田所主任研究員 昨年の10月時点集計での2001~18年までの全固体電池に関する特許出願件数約9400件の国別内訳は、日本が37%でトップ、2位が中国で28%、次いで米国、韓国の順だ。しかし、最近の16~18年でみると、中国が日本を上回ってきており、国を挙げてこの電池の開発に取り組んでいる姿勢がうかがえる。出願人別の特許の件数でみると、トヨタが首位で、出光興産が3位、日産自動車が8位、ホンダが10位で、上位20位内の4分の3は日本勢で占めている。現状では、日本は優位に開発を進めているが、中国の追い上げはすさまじいので、油断はできない。

――全固体電池の論文数では中国が多いようだが、中国の追い上げはどうか。

田所主任研究員 確かに論文数では中国が一番多く、様々な開発を進めているようだ。研究者の人数も相当多くいるようだ。


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