一極集中により東京都内で着実に増える高齢者。そこで高まってくるのが医療への需要だ。適切な医療資源の配分を行わなければ、崩壊への一途を辿る可能性もある。
すでにその歪みは出ている。東京消防庁が新型コロナウイルス感染拡大前の2019年に救急搬送した65歳以上高齢者は38万3856人と、全体の半数以上を占める(同年救急活動の現況)。5年前からの推移を見ると、64歳以下は横ばいであるのに対し、高齢者は14%増と右肩上がりである。しかもその内容は、軽症および中等症が9割以上を占める。
こうした状況について、都内を中心に24時間体制の在宅医療ネットワークを展開する医療法人社団悠翔会の佐々木淳理事長は「高齢者の119番通報のほとんどが、咳や足の痛みといったちょっとした体調の変化に関する相談だ。近くに連絡できる家族がいないことなどで不安に思い、通報してしまう。ただ、かかりつけ医がいれば改善する契機にできる」と指摘する。
ひとたび救急搬送となれば、消防隊の出動や搬送先の病院への連絡、受け入れた病院は問診や治療を施し、必要とあらば数日間入院させることになり、多くの人の手がかかる。そして何より医療費が大きくなり、それは国民が税金によって負担することになる。
こうした救急搬送の負担は、一端にすぎず、必要以上の通院や入院が医療提供体制を圧迫している。高齢者の絶対的な数が増え続け、医療需要の上がっていく東京だからこそ、急性期医療や長期の入院を前提とする医療から、健康に関するすべてのことを相談できる「かかりつけ医」を中心とした在宅医療を基本とするシステムへと移行することが求められる。
資源は潤沢な東京
求められる地域行政の旗振り
東京都には病院が638施設あり、都道府県で最も多い(19年医療施設調査)。高度医療や先進医療を提供する大学病院本院や特定機能病院だけでなく、病床200床以下の中小病院も数多くある。東京都は民間病院の割合が9割を超え、全国平均よりも高い。在宅医療はじめ高齢者医療を提供する資源は〝数〟の観点からは多いとされている。
ただ、医療・福祉行政に詳しい東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫客員研究員は「民間病院は公的な病院と違って、行政の指導が及びにくく、機動的に動けない。また、中小病院も多いので、病院間での連携や役割分担も進めにくい」と指摘する。
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