CHANGE CHINA

2021年9月7日

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古畑康雄 (ふるはた・やすお)

共同通信社記者・愛知大学非常勤講師

1966年東京生まれ。89年東京大学文学部卒業後、共同通信社に入社。97年から北京の対外経済貿易大学に語学研修留学。2001年から16年まで同社の中国語ニュースサイト「共同網」を企画、運営。著書に『習近平時代のネット社会』(勉誠出版)など。
 

栄剣(えいけん)
【栄剣(えいけん) 
1957年中国浙江省生まれ。人民解放軍部隊を経て78年に山東省曲阜師範大学中国文学科に入学。83年、中国人民大学マルクス・レーニン主義発展史研究所修士課程に入学、マルクス主義哲学史を研究する。86年、博士課程に進学するが、89年に天安門事件により研究を断念。90年に民間に転じ、評論・著作の傍ら99年からビジネスに従事する。著書に『中国リベラリズムの「第三の波」』、『新盛世危言』など。  

 中国ネット世論のナショナリズム化、ポピュリズム化が猖獗(しょうけつ)を極めている。新型コロナウイルス対策で「成功」を内外に宣伝する中国政府は、コロナ感染源や新疆ウイグル自治区、香港などの人権問題も含めて強まる西側からの批判に、攻撃的な「戦狼外交」で反発、世論もこれを支持した。

 ロックダウン(都市封鎖)期間中の武漢での生活を記録した『武漢日記』を発表した作家・方方さんも、欧米で翻訳が出版されたことで、「中国の内情を海外で暴露した」などとしてネットで「売国奴」と攻撃にさらされた。厳しいネット規制により、海外からの情報を遮断された若者は、「中国は素晴らしい」「中国は悪くない」という政府寄りの情報の影響を強く受けるようになり、中国の現状を肯定し、ますます西側との価値観の乖離が露わになっている。

7万人のフォロワーに発信

 こうした中で、インターネットなどの言論空間が比較的自由だった時代に、自由や民主などの普遍的な価値観や、権力の監視などについて活発に発言していた知識人は、以前本誌2021年4月号の本欄で紹介した許章潤さんのように発言の場を奪われ、沈黙を余儀なくされている。だが、ツイッターなどを活用し交流の場を広げ、言論活動を続ける知識人もいる。今回紹介する思想家で評論家の栄剣さんは、代表的な一人だ。

 栄さんは1957年浙江省生まれ。中国人民大学でマルクス・レーニン主義を研究するが、天安門事件で研究を断念、その後民間へと転じて画廊を営むほか、時事問題などについて評論や著作を発表している。栄さんは以前、中国版ツイッター微博(ウェイポー)を使っていたが、度重なるアカウント取り消し処分を受けたため、2017年からはツイッターで発信をするようになり、7万人以上のフォロワーがいる。

 栄さんは1日に数本をツイート。最近の発言を見ると、ナショナリズムを煽る一部の学者らに対し、「愛国を商売にしている」といった厳しい批判を続けており、リベラリストとしての気骨を感じさせる。

 栄さんと知り合ったのは14年、来日中の栄さんを伊豆の温泉に誘った。それ以来、北京を訪れた時には学者やジャーナリストの会合に呼んでくれたり、あるいは私が来日した彼らを旅行に招待したりしたこともあった。許章潤さんも栄さんを通じて知り合った。

栄剣氏(左)と元清華大学法学院教授の許章潤氏(筆者提供)

 栄さんから依頼を受け、これまで何本かの彼の論文を翻訳した。うち1本は日中関係に関し、東京大学で行った講演で、日中関係が緊張する中で歴史問題に触れつつも、中国政府やメディアとは違った次のような見解が新鮮だった。

「100年近くの間、日本は中国に2度戦争を発動した。最初の日清戦争で日本は中国に勝ったが、客観的には中国社会の転換を加速した。中国の有識者は日本のような憲政の道を進み、政治制度改革を進めなければならないと認識した。

 だが、日中戦争は中国が既に入っていた憲政のプロセスを中断させ、確立し始めていた政治秩序や社会のバランスを破壊し、窮地に追いやられていた共産党に千載一遇のチャンスを与えた。日中戦争により、中国社会は自由主義の憲政革命から離れ、全く違った道、つまり共産主義革命へと取って代わってしまったのだ」

「多くの日本の政治家や学者は、日々強大化する中国が日本の国家安全やアジアの国際秩序へ与える影響を懸念する。だが日本の政治家や学者が心配する、強大だが憲政を拒否する中国は一体どのように生まれたのか。もし日本が侵略戦争を発動しなければ、中国はどのような状態となり、日中関係はどのような局面になっていたか。日本はこうした問題について深く考える必要がある」

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