2022年12月8日(木)

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2021年9月3日

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佐々木正明 (ささき・まさあき)

ジャーナリスト、大和大学社会学部教授

1971年岩手県生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒業後、産経新聞社に入社、大阪社会部、モスクワ支局長、リオデジャネイロ支局長、運動部次長、社会部次長を歴任。特派員として五輪・パラリンピックやサッカーW杯を取材した。2021年春から現職。著書に『恐怖の環境テロリスト』(新潮新書)、『シー・シェパードの正体』(扶桑社新書)。

 新型コロナウイルスの感染拡大で大会が1年延期されたが、むしろ、これを好機ととらえた。得点力をあげるためのセットプレーの数々。ドリブルで仕掛ける相手エースを止めるダイヤモンド型の組織的守備。地道な練習を日々、こなした。

 高田監督は5年前のリオ大会での日本代表チームの力を1とすると「今のチーム力は50倍」と語る。攻撃力、守備力、スカウティング力など世界の強豪に引けを取らないチームへと強化した。

 さらに、①ブラインドサッカーでは大事になる声の質・ボリュームをあげるボイストレーニング②練習場を本番の会場と同じ芝にする③過去10年間の会場の気象データを調べ、あらゆるピッチコンデションを調べる④相手ベンチの動きを見て、フォーメンションや選手の位置を変えて意表を突く―などなど、もし相手チームが知れば、ここまで日本が準備してきたのかとうなるに違いない。

忘れてはならないサポーターとの団結力

 ブラサカ日本代表の勝利のメソッドはそうした「緻密な準備」と一瞬のプレーにかける選手たちの「パッション」にあるが、さらに強調したいのは、勝利のために高田ジャパンのもとに集まってきたサポーターたちの団結力だ。

 ブラサカ日本代表は協会関係者やチームスタッフだけでなく、熱心に手弁当で支えてきたボランティア、現役引退した先輩プレーヤー、地元自治体や協賛企業、PRに尽力したサッカー好きのミュージシャン、芸能人といった多種多様な人たちに支えられてきた。「この世に不可能なことはない」と信じ、何度も何度も限界を超えたプレーを見せてくれた選手たちに心が動かされ、悲願のパラ1勝を夢見てきた。

 スペイン戦が終わった後、この日も闘志あふれるプレーを見せた、43歳の佐々木ロベルト泉選手が何度も何度も、観客のいないスタンドに向かって「ありがとうございました。ありがとうございました」と叫んでいた。それは、ブラジル・サンパウロ生まれで来日し、28歳で交通事故に遭い失明、帰化して臨んだ助っ人の心からの感謝の印だった。佐々木選手は「この国は幸せなことをたくさんくれた」と語った。

 スーダンで生まれ、12歳の時に視力を失い、1998年に19歳の時に鍼灸を学ぶために来日。日本でブラインドサッカーを始め、所属するチームで日本選手権3度の優勝に貢献したアブディン・モハメド氏(43歳、NPOスーダン障害者教育支援の会代表理事)は今大会、日本代表の主力メンバーと一緒に戦った経験を持つ。そのうえでこうエールを送った。

 「川村選手は努力家で本能的なプレーをする。黒田選手は空間の認知能力がすごい。佐々木選手はとにかく明るくて、全身全霊で身体を張ってプレーする。田中(章仁)選手はIQの高いサッカーでとにかく読みがすごい。今大会で彼らはブラインドサッカーの魅力を大きくアピールした。パリ大会も頑張ってほしい」

 選手、スタッフが集まって勝利の円陣を組んだ時、奇しくも会場には人気グループ、サカナクションの「新宝島」がBGMに流れた。激闘を癒すかのように東京に降り注いだしとしと雨。ピッチに作られたブラサカ日本代表の輪は、苦節の末につかみ取った、まさに「宝島」のようだった。

  
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