パラアスリート~越えてきた壁の数だけ強くなれた

2020年7月4日

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 空前のラグビーブームが沸き起こったラグビーワールドカップ2019の開催期間中、もう一つのラグビーが開花した。2015年にイギリスで生まれ、国内では2019年1月に活動がスタートした「ブラインドラグビー」である。

 初の国際大会となった「国際テストマッチ2019 in JAPAN 日本vsイギリス」が2019年10月13-14日(※)に熊谷ラグビー場で開催された。

初の国際大会となった「国際テストマッチ2019 in JAPAN 日本vsイギリス」

 初めての競技、初めての国際大会に向け、ブラインドラグビー日本代表はどのような準備をして臨んだのだろうか。日本代表キャプテンの神谷考柄に聞いた。※(「国際テストマッチ2019 in JAPAN 日本vsイギリス」は、台風の影響により試合は10月14日一日に短縮してすべての試合を行った)

耳を目に、仲間のサポートで激戦区を戦い抜いた高校時代

― 神谷さんは、東大阪市の日新高校出身で弱視ながらも、日本一の激戦区といわれる大阪地区で準決勝まで勝ち上がった強豪チームで活躍されましたが、耳からの情報が頼りだったのでしょうか。

神谷考柄さん

神谷 視覚障害者である僕らの生活は耳からの情報が中心ですので、音はとても重要で目の代わりに耳を使っている感覚です。その耳からの情報に想像を加えて判断をしています。

 試合ではボールがどこにあって、誰がどこにいるというのも声とか音などからおおよその位置関係を判断しますし、ボールを持っている相手が近くにいれば、一人だけ動きが違うのでわかりました。

 なによりも僕がラグビーを続けることができたのは仲間の声掛けとかサポートのおかげだと思っています。そのときの経験は今回キャプテンという立場でブラインドラグビー日本代表を一つのチームにまとめていく過程で生きてきたと思っています。

すべてが初!日本代表キャプテンとして取り組み

― その経験はどのような形で生かされたのでしょうか。

神谷 高校時代の僕は晴眼の人たちにフォローしてもらいながらプレーをしてきました。あらゆる場面で仲間の声によって状況を判断することが多く、それがなければ試合をすることもラグビーを楽しむこともできなかったと思います。

 その僕がブラインドラグビーではキャプテンとしてフォローしなければならない立場になりました。選考会に集まった選手たちは近藤正徳(過去記事『失明のリスクを背負いながらラグビー部のキャプテンに』)以外はみなラグビーの初心者ばかりです。見えない僕が見えない仲間をフォローしなければならないので、何ができるか考えたところ、まずは勝ち負けよりも、みんなでラグビーを楽しむことに焦点を当てることから始めようと思いました。いかに楽しさを知ってもらうか。試合に出て良かったと思ってもらえるか、それにはいかに信頼関係を築いてワンチームになれるかだと思いますので、そこに目標を置くことにしました。

― 具体的にはどんな取り組みを?

神谷 重要なことはコミュニケーションの取り方です。集まったメンバーがチームとしてどれだけ信頼関係を築くことができるかがポイントになります。

 初期の頃は「パスの声を出せよ」とか、「声を掛け合おう」とプレー以前の根本的なところで声を掛けていたのですが、なかなかそれができませんでした。パスを後ろにしか投げられないなんて、やったことない人たちには複雑な競技に感じて、みんな頭の中がいっぱいいっぱいだったのです。

 大会までそれほど時間があるわけではありません。そこで監督やコーチと相談して、練習の前と後や休憩のときなどに心掛けてコミュニケーションの機会を増やすように意識しました。みんなにも声を掛け合うように徹底しました。

 晴眼の人たちだってミスは起こります。見えない僕たちはもっとミスが起こりやすい。ですが、意識してコミュニケーションを取っていくうちに自然と練習の中でも声が出せるようになってミスも減っていきました。

 それからは短期間にラグビーの理解度が高まって、声掛けの内容が、いま自分がどこにいるとか、ここにパスが欲しいとか、走るコースのやり取りだとか、次のプレーに繋がる内容に変わっていったのです。それが大会でもいい形で出せたと思っています。

練習中の神谷さん

ラグビーワールドカップの効果

 ワールドカップをテレビで見てたり、初心者向けの解説を聞いたりする選手が増えてくるようになって短期間に練習の質が高まったように感じました。

 「国際テストマッチ2019 in JAPAN」はラグビーワールドカップの日本代表vsスコットランド代表戦の翌日でした。みんなで試合を見て盛り上がったのですが、「このタックルが僕らのタッチなんや」とか「僕が外にいるのは福岡選手と同じなんや」という感じに、自分と同じようなポジションの選手の動きを自分に重ねて見ていました。

 それにワールドカップ関連のイベントでブラインドラグビーの体験会も同時に行うようになってからですが、街中を歩いていたときに「目の見えない人たちのブラインドラグビーという競技があるんだって」という会話をしている人たちがいて驚いたことがありました。ワールドカップの影響は大きいですね。

見え方が異なる選手たちに対応

― 視覚障害者には三つの苦手なことがあるとされています。一つ目はターゲットに向かって投げること。二つ目は動いている物をキャッチすること。三つめは物を持ってトップダッシュで走ることです。それをどのように克服されたのですか。

神谷 視覚障害者は一人ひとり見え方が違いますので、一口に視覚障害といっても千差万別です。まずは練習前の自己紹介でそれぞれ見え方を伝えるのですが、仲間を理解するという点では重要でも、人数が多いのですぐには覚えられません。

 やはり練習中にコーチや僕が意識して、この選手はここが取りづらそうだとか、こういうミスが多いとか、その場、その場でコミュニケーションを取って、それぞれの選手の強みとか特徴がわかってきました。それに合わせてポジションを決めていったのです。

 だから、メンバーを組んだときに選手は右とか左が決まっているんです。その上で、ボールを受ける側の選手は隣の選手(ボールを投げる側の選手)に常に声を掛けて自分の位置を知らせておきます。ボールがくるまでの間はずっと声を出し続けています。

 したがいまして、選手がボールを受けたときは、外側にいるボールを受けていない選手も、ボールを受けてこれから投げようとしている選手も同時に位置関係を把握しているということです。

 広いグラウンドなのでほぼ隣の選手の声しかわかりません。もし外側の選手が内側の選手に「こうして欲しい」という指示がある場合は伝言ゲームのように隣へ隣へと伝えていきます。

― ボールを持ってアタックするときはコントロールできますが、ディフェンスのときはどうするのですか?

神谷 ディフェンスのとき相手の位置はわかりませんが、選手は7人同士なので右から①②③というふうに番号をつけていきます。そして真ん中に比較的見えている選手や指示を出す選手がいるのでその人がキーマンのはずです。

 動きが早いので攻撃が続くとディフェンス側はぐちゃぐちゃになりやすいんです。視覚障害者はそれに弱い。ですが、そういうときでも、右から①~⑦という原則を決めておけば一番右側にいった選手が「オレが①」と言ってくれれば、次の選手は②となって、それが伝言ゲームのように伝わって対応しています。

 視覚障害に関連してもう一つ。橋本利之監督も視覚障害者なので見えてはいません。ですが、見えているように指示が的確なんです。感覚が鋭いのはもちろんですですが、視覚障害者は耳からの情報をもとに想像を使っています。過去の経験から声の情報だけでも状況がイメージできるのかもしれません。視覚障害者は耳からの情報が中心ですが、目の代わりに耳を使っている感覚の良い例だと思います。

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