2024年4月27日(土)

Wedge REPORT

2021年9月3日

 ブラサカ日本代表の躍進は、今から6年前。イラン、中国に敗れて、リオデジャネイロ大会出場を逃し、GKコーチから新監督に就任した高田監督のもとで始まった。それまで守備的な戦術をとることが多かった日本代表はがらりと方向転換し、東京大会を見据え、「3点とられても5点取る」攻撃的なサッカーを試み始めた。

 2016年6月にブラジルに遠征した日本代表はリオデジャネイロで行われた国際大会で攻撃的なサッカー戦術を展開し、イランを相手に1点をとって引き分け。中国には初めて勝利する結果を残した。高田ジャパンの方向性が間違っていないことを選手・コーチ陣に植え付ける大きなきっかけになった。

2016年6月、ブラジル・リオデジャネイロであった国際大会で、好成績を納めたブラインドサッカー日本代表。試合会場のまわりではファベーラ(貧民街)があった(筆者撮影)

 そこから日本ブラインドサッカー協会一丸となった日本代表の強化が始まった。スポーツに限らず、どんな分野でも弱小の組織が強くなるためには、人も金もいる。協会のスタッフや高田監督らが自ら各企業をまわり、チームの強化のために熱く語り掛け、全日本空輸(ANA)や双日をはじめ、大企業のスポンサーを獲得した。

 高田監督のもとには、IT技術を駆使したスポーツテックのベンチャー企業も集まってきた。スポーツテック企業「ユーフォリア」(東京、橋口寛・宮田誠共同代表)もその一つ。同社は選手がストレスを軽減して身体づくりを行うためのコンディション管理ソフト「ONE TAP SPORTS」を開発しており、結果を残していた。

 過酷な練習を積む選手たちがいかに睡眠をとるか、いかに休養を取るかは長期的なトレーニングでは重要となる。「ONE TAP SPORTS」は今となってはオリ・パラの代表選手たちの多くが使っているが、高田監督は早くからこの新鋭企業の動きをキャッチし、このソフトを使って、けがをしない強靭な身体、プレーに即した効果的な筋力アップを実現した。

 大会直前には低酸素トレーニングも取り入れられた。酸素濃度を調節して標高2500~3000㍍の環境が再現された空間で、選手たちは心肺機能を鍛えた。こうして、選手たちは最後まで決して走り負けない身体が鍛えられた。

対戦国のデータも徹底分析

 情報が勝負を分けるのは古今東西、世の常だ。高田ジャパンは練習や試合のピッチ以外でも、強化のために何をしたらよいのかの情報のアンテナを常にはり、最新の設備やソフトの試行錯誤を決して怠らなかった。

 選手一人ひとりに、健常者の11人制サッカーの本場である、欧州のフットボールの概念が植え付けられたのも大きい。

 欧州の強豪チームで指導者の研修を積んだ高田監督はACミランで「サッカーの失点の55%は脳疲労からくる判断ミスで起こる」と分析されていることを知り、脳疲労しない身体づくりにも励んだ。

 それでも、圧倒的な体格差と技術力で劣るチームが勝つためには、闘志と粘りだけではまだまだ足りない。高田ジャパンは対戦国のプレーのデータを徹底的に集め、相手エースの癖、守備の穴を分析した。「フランスはファールを狙いに来る」「ブラジルは日本の暑さでモビリティにかける」「中国はドリブルを封じれば、得点力がない」。これらを徹底して選手に叩き込んだ。


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